表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IZANAGI  作者: 佐久謙一
76/108

二章 死神30

 アパートの古いドアを開き、外に出ると、湿ったアスファルトの臭いが鼻についた。

「雨は……大丈夫だろう」

 空を眺めながら、煙草を口にくわえ、火をつける。

「ガレイドさん?」

隣の人の声を聞き流し、ふぅ、と煙を吐き、車の行きかう道路を眺める。そして先程発せられた言葉を頭の中で反芻する。

「……ガレイド?」

 そう呟き、そこでやっと自分の姓だと思い出し、慌てて振り返った。

 アパートの入り口。そこには少し背の高い綺麗な女性がいた。イザーナは彼女を知っている。

「ウーノじゃないか。どうしたんだ?」

 その言葉に、彼女――ウーノは、うっすらと微笑んだ。

「いえ、ちょっとガレイドさんに用がありまして」

「ガレイドさんは止せって。他の奴と同じようにイザーナでいい。友人の似非哲学者が付けた変なあだ名もあるしな」

 そうなんですか、と彼女は柔和な笑みを浮かべた。

「……それと、あの時はすまなかったな。あいつ――ツズファが変なこと聞いちまって」

 いえ、とウーノは首を軽く振る。

「大事な話をしていたみたいですし――勝手に私が話に割り込んでしまったんですから、私のほうに非がありますよ」

 すまなかった、とイザーナはもう一度謝った。

「ところで用事って何?」

 話の本筋を戻し、そう尋ねる。ウーノは、えっと、と呟きながら、持っていた鞄の中から、紙切れを二枚取り出した。よく見ると、表面に今人気の映画のタイトルが印刷されていた。どうやら映画のチケットのようだ。

「その……もし良かったら、今から一緒に見にいきませんか?」

 そう言って、上目遣いにこちらを見てくる。その視線にイザーナは、喉の奥で軽いうめき声を漏らす。

 ――この映画は確か……。

 イザーナは目の前の映画に関する記憶を、手繰り寄せる。

 この映画はどこにでもある恋愛ストーリーだ。確か警察官と娼婦の恋愛がテーマだったはず。

「いや、悪いけど……」

 もう見た。恋人と。と続けることが出来ず、語尾を濁した。

 しかし、それだけでも十分にウーノには通じたようだった。

「あ、はい。分かりました……」

 ウーノはそれだけ言うと、チケットを鞄に仕舞う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ