二章 死神29
「先に教えとけよ」
置いた手に力を込め、ゆっくりとそう言った。
「分かっていますよ。私は導き手なのですから、サポートはしっかりとやるつもりですよ?」
ツズファは、クックック、と不気味な声を漏らす。
「……兄貴顔怖いよ」
「アテラ、そういうことは本人の前で言わないように。私だって傷つきますよ」
「お前のせいで俺は文字通り傷ついたんだけどなぁ……」
「気のせいでしょう」
「…………」
イザーナは呆れたように息を吐き、玄関のほうへ足を運ぶ。
「おや、どちらへ?」
ドアノブに手を掛け、肩越しに返す。
「どこでもいいだろ。ちょっと行きたいところがあるんだ」
そう言う彼にツズファは言葉を投げかける。
「夕方までには帰ってきてくださいね」
「使命か?」
「夕飯です」
「知るか」
適当に返し、廊下に出る。
「イザーナ殿」
名前を呼ばれ、振り返る。
「何だ?」
ツズファは玄関近くの電話を指差して、言った。
「何かありましたらお電話を。すぐに駆けつけましょう」
「何かって何だよ」
「教えられません」
「…………」
「聞き返さなくなりましたね」
「やかましい」
鼻を鳴らし、そう吐き捨てる。
「おみやげよろしくね」
アテラの声を無視し、ドアを閉める。
壁の『煙草を吸う人間は有害物質と変わりません』と書かれたポスターに顔をしかめつつ、階段を下りていく。