二章 死神22
「おい、何をする気だ!」
イザーナはそう叫んで立ち上がる。そして自分を殴った男に襲い掛かる。
「いいねぇ。まだ意識があった」
男は大きな笑みを浮かべ、ボクシングのようなファイティングポーズをとる。
イザーナは男との距離を近づけると、一瞬の間を置いて拳を放つ。その拳は簡単にかわされるが、姿勢を低くし、その勢いのまま相手の腹部目掛け、体当たりをする。背中に相手のひじが落とされ、一瞬息が詰まるが、ひるまずに相手の襟首を掴み、その顔を力一杯ぶん殴る。
「おい、どうした! もう終わりか!?」
男の腹部に膝を叩き込み、前のめりになったところにひじを落とし、その場に跪かせる。これでも元警官なのだ。少しだが格闘技の心得はある。
「手前!」
アテラを取り囲んでいた男の一人が叫ぶ。イザーナは視線をそちらに向ける。と同時に――
轟音。
「…………」
轟音と同時に、イザーナは無意識に腹部を押さえ、その場に跪いた。
「……あんた結構やるじゃねぇか」
視線を最初の男に戻すと、そいつは大型の銃を握り、こちらに向けていた。その銃口からは硝煙が立ち上っている。次に視線を自分の腹部へと持っていく。
シャツが血に染まっていた。自分の手でしっかりと押さえられているが、血がとめどなく溢れてくる。
「手前がどこの組織の使い走りか知りたかったが……これじゃあもう助からないな」
男は銃を仕舞い、立ち上がる。
「急ごう。ちょっと遊びすぎた」
「女はどうします? 殺しますか?」
仲間の一人がそう尋ねると、男はアテラを一瞥し、次に視線をイザーナに持っていく。イザーナはうずくまった状態で男達を睨んでいた。男の顔に笑みが浮かぶ。
「そんな怖い顔で睨むなよ」
そう言って、煙草を取り出し、くわえる。
「安心しなよ。女はお前の分まで楽しんでやるからよ。早く楽になっちまえよ」
火を付け、煙を吐く。イザーナは歯を食いしばり、男を睨む。
男はイザーナに背を向け、自分の車のほうへ歩き始めた。二人の男がアテラの腕を掴んでその後に続く。どういう訳か、アテラは何の抵抗も見せず、空をボーっと眺めながら、男たちにされるがままになっている。
――くそったれ、逃がすか!