二章 死神21
「なぁ、こんな奴ほっといて行こうぜ」
黒塗りの車の近くに立っていた男が口を開く。
「早くしないと逃げられちまう――」
「それだ!」
イザーナはその男を指差し、叫ぶ。男の逃げられる、という言葉を聞いて、この場で時間を稼げばこいつらを相手にしなくてもいい、という考えが浮かんだ。
だがイザーナの突然の言葉に、男達は怪訝な顔をしている。
「いや、その……俺はあんたたちに時間を教えてもらおうと思っていたんだ」
イザーナは愛想笑いを浮かべて、場を取り繕うとする。
「ちょっと道に迷って、それであんた達を追いかけて――」
「とぼけやがって。俺たちがやろうとしていることを知っているんだろ? お前ら警察か?」
ボンネットに座っている男が睨んでくる。ここで変にごまかすと逆に怒りを買うかもしれないので、ここは正直に話しておいた。
「元警官だ。今は違う。だから見逃してくれ」
イザーナがそう言った途端、ボンネットに座っていた男が立ち上がり、イザーナの肩に手を置く。
「なるほど、元警官か。それで時間と場所が知りたいんだったな」
男は自分の腕時計を見やる。
「今は十二時三十二分だ。そしてここはオウングロウの第四区画。満足か?」
その言葉を聞いて、イザーナは息を吐く。
――あと六分……。
「それで? 他に頼みたいことはあるか?」
男は歪んだ笑みをこちらに近づけてくる。
「……そうだな、煙草を一本くれ」
愛想笑いを浮かべながらそう返すと、男の笑みが消えた。
「それとコーヒーもあると最高だな――」
「ふざけやがって」
その言葉と同時に、男の拳がイザーナの顔に打ち込まれた。ふざけすぎて怒りを買ったようだ。
男は格闘技をやっていたのか、その拳は重く、イザーナはなすすべもなくそのまま地面に倒れ、後頭部を思い切りぶつけてしまった。
「おい、これぐらいで気絶するなよ?」
男は視線をアテラに移動させ、仲間に、おい、と声を掛け、アテラをあごで示す。その指示に男二人は下卑た笑みを浮かべ、アテラを取り囲む。