二章 死神⑳
イザーナがそう尋ねると同時に、男の腕がこちらに伸びた。その手には――銃が握られていた。
「!」
イザーナがブレーキを踏むのと男が銃を撃つのは同時だった。けたたましいブレーキ音が鳴り響き、車内が激しく揺れる。
周りに車が無かったのが幸いだった。イザーナの運転する車は何かにぶつかることも無く、停車することが出来た。
「くそっ!」
車が止まると同時にイザーナは悪態付いた。
「……大丈夫?」
アテラに顔を向けると、その額から血を流していた。先程の衝撃でぶつけてしまったらしい。
「お前こそ大丈夫か? 血が出てるぞ」
そう言って、アテラの額に手を伸ばす、が――
「?」
伸ばした手は、むなしく空を切った。
イザーナが怪訝な顔をすると、アテラの顔が悲しげに歪む。
「どうしたんだ?」
そう尋ねると、アテラの手がイザーナの右の頬に触れる。視線を下げるがアテラの手は見えない。
「……目が」
その言葉でやっと、自分の右目が見えていないことに気付いた。先程の銃弾が右目に命中したらしい。
「くそ、あいつら……」
イザーナがそう舌打ちすると同時に――突然フロントガラスが砕け散った。とっさにアテラの頭を抱え、ガラスの破片から守る。
「おい、降りろ」
その声に視線を上げると、車の周りをガラの悪い三人組が取り囲んでいた。
「ラージムーンからずっと俺たちを尾行していただろ?」
どうやら尾行はばれていたらしい。アテラを抱えたまま、イザーナは車から降りる。
「俺たちに何か用か?」
ボンネットに座り込んだ男――こいつがフロントを叩き割ったようだ――が薄い笑みを貼り付けて聞いてくる。
「……あぁ、えっと」
イザーナはアテラを自分のうしろにやり、視線をさまよわせながら、必死に言葉を考える。