二章 死神⑲
「何、下手くそって!? わ、私がどれだけ恥ずかしい思いで打ち明けたか……」
みるみる顔を真っ赤にして、アテラは次々に怒りを吐き出していく。
「だ、大体そういう知識は必要最低限しかないんだから、そんな、上手な誘い方なんて知っているわけないでしょ!」
その突然の変わりように、イザーナは口に手を当て、肩を揺らして笑う。
「くく、ははははははっ! お前ついに地が出たな。いいぜ、そっちのほうがずっとかわいいぞ」
「な、何言ってんの。いきなり……」
かわいい、と言った途端、今までの勢いが嘘のように、急におとなしくなった。その様子にイザーナは目に涙を浮かべ、さらに笑う。
「……笑いすぎ」
そう言ってアテラが上目遣いにこちらを睨んでくる。
「そう睨むなって。つまり俺が言いたいのはな――」
アテラの頭にぽんと手を置き、小さい子供をあやすように撫でる。
「そんなに気張るなってことだ。存在理由なんか無くてもいいんだよ。全員が全員、やたらすごい使命やら生きがいやら持ってるわけじゃあねぇんだからさ」
そう言ってアテラの頭をぽんぽんと叩き、手をハンドルに戻す。
「それに、いいじゃねぇか。一方通行が嫌だってことは、人間誰しも考えるさ。自分は導き手だから、なんて考えは捨てな。お前、今が楽しいか?」
イザーナの質問に、アテラは数秒考えたあと、うん、と呟いた。
「ならそれでいい。それで十分。はい、この話はおしまい、と」
その言葉にアテラはクスクスと笑った。
「うん。ありがと」
アテラの言葉にイザーナは微笑んだ。
「それにしてもあいつら、どこまで行くつもりだ?」
視線を前方の車に向け、軽く息を吐く。車内の時計を見ると、店を出たときから十五分が経過していた。周りを見ると、どうやら第四区画に近付いているようだ。
「これ以上奥に行くのは少しまずいな……」
どうしようか、と考えを巡らせていると、前方の車が突然スピードを緩め始めた。イザーナは尾行がばれないよう、そのまま横を走りぬけようと、車に近付いていく。
「おい」
その車の横に並んだとき、突然声を掛けられた。横に顔を向けると、開いた助手席の窓からサングラスをかけた男がこちらに笑みを向けていた。車は平行に並んで走っていく。
「何だ?」