二章 死神⑱
「…………」
イザーナは無言のままアテラに視線を送る。
「私は――」
アテラは微笑を浮かべたまま、ゆっくりと口を開く。
「こうするためにあなたといるの」
アテラは右手をそっと動かし、イザーナの太ももに被せる。
「……どういう意味だ?」
自分のももの内側に指を這わせようとするアテラの手を払いのけ、尋ねる。
アテラは挑発的な目でこちらを見据え、ゆっくりと口を開く。
「神は性交を許されていない。今から何十年――もしかしたら何百年も生き続けなきゃいけないのに。それじゃあ辛いでしょ?」
イザーナは顔を、アテラから前方に戻し、運転に集中する。途端にアテラの手が伸び、顔を戻される。
「最後まで聞いて」
そう言うアテラの表情は真剣そのものだった。
「何を聞けって言うんだ。突然馬鹿みたいなこと言いやがって」
「馬鹿じゃない。これが私の存在理由なの!」
そう強く訴えるアテラの気迫に一瞬圧倒され、イザーナは返す言葉を失う。
「怖いの」
アテラは何かをこらえるようにぽつぽつと語る。
「私は……あなたに好意を抱いている。もちろんこれも――あなたの言うプログラム。神の欲望から生まれる導き手は、神を絶対に愛していなくてはならない。もし神が望んだなら……私は応じなければならない。それでも……どんな形にしろ、私は神を愛しているから構わない。でも、もし望めるなら――」
「愛していると言ってほしいか?」
イザーナの言葉に、アテラは口をつぐむ。
イザーナは顔を前に戻し、深々とため息を吐いた。
「……変かな、こんなこと言うの」
その言葉にイザーナは顔を前に向けたまま、静かに口を開いた。
「知らねぇよ。俺は哲学者でも論理学者でもないんだ。人を満足させられる言葉が言えるわけねぇだろ」
「…………」
アテラは顔を俯かせる。
「ただ一言、お前に言えるとすれば――」
え、とアテラは顔を上げる。そこには、にやりと笑みを浮かべたイザーナの顔があった。
「男を誘うの、下手くそだな」
アテラはぽかんとした顔でイザーナを見やる。そして数秒の間を置いて――
「はぁ!?」
アテラは顔をしかめて、声を張り上げる。