二章 死神⑰
「分からないから聞いたんだろ」
「……そだね」
黒塗りの車とは付かず離れずの距離をうまく保ちながら、再びアテラに視線を送る。
「言いたくないなら別に言わなくてもいいぞ」
イザーナがそう言った途端、くるりとアテラは振り返り、その瞳をこちらにまっすぐに向けてきた。
「……?」
アテラの目を怪訝な顔で見返す。
「ねぇ」
アテラは無表情のまま、静かに口を開いた。
「私、かわいい?」
「……は?」
イザーナは表情を変えずに尋ねる。
「今、何て言ったんだ?」
「……だから」
アテラは頬を赤らめ、こちらを睨みながら、もう一度はっきりとした口調で言った。
「私、かわいい?」
「…………」
イザーナはその質問にどう答えようか数秒迷い、最終的に一番簡単な答えを口にした。
「かわいいぞ」
イザーナの言葉を聞くと、アテラは驚いたように目を見開き、さらに顔を真っ赤にする。
「う、うん。ありがと……」
アテラは小さくそう言って、こちらから視線をそらした。
「…………」
――何なんだ、この会話は……。
イザーナは顔を前に戻し、うんざりした表情を浮かべる。そして視線を前方の黒塗りの車に戻し、深く息を吐く。
――今は使命が優先だな。
そう考えながら、車のスピードを上げる。すると突然、首元に生暖かい何かが巻きついてきた。
「?」
それが何か確認しようと、視線を下げる。それと同時に、頬に何か柔らかいものが触れる。
「…………」
眉をひそめ、顔をゆっくりと横に向けると、そこには微笑を浮かべたアテラの顔があった。いたずらを考え付いた子供のような目をしている。そこでやっと、アテラがイザーナの首に抱きついていると分かった。