二章 死神⑯
「車を貸して欲しい」
「な、何言ってんだよ、アンタ」
「いいから貸せ」
イザーナは強引に運転手を降りさせ、車に乗り込む。
「おい、いい加減にしろよ! 跳ねちまったのは謝るからさ」
「治療費だ。こいつをその片に貰う」
「おい、何で借りるが貰うになっているんだよ!? これ買ったばっかりなんだよ!」
「人の命が懸かっているんだ。協力しろ」
それだけ言って、アクセルを踏もうした瞬間、突然隣に誰かが乗り込んできた。
「私も連れてって」
隣に顔を向けると、仏頂面のアテラがシートに座り込んでいた。
「何やってんだ、お前?」
「…………」
アテラは何も返さず、何を思ったのか、突然イザーナの足ごとアクセルを踏みつけた。
「おいっ!」
突然急発進した車に驚きつつ、素早くハンドルを切り、車と車の間を抜き去っていく。
「早くしないと見失う」
「もう少しやり方があるだろ!」
何とか車を安定させ、安堵の息を吐く。アテラの言葉は正論なのだが、さっきの行為のせいで、危うく事故を起こしかけた。
「……ごめんなさい、ちょっと焦ってた」
アテラは少し俯いて、言った。
「どうしても言いたいことがあったから」
「言いたいこと?」
イザーナはスピードを上げて、車を走らせる。すると先程の黒塗りの車が信号停止しているのが目に留まった。見失わずに済んだようだ。
「何だ? 言いたいことって」
ブレーキを踏み、車の列に並ぶ。
「……何で導き手に女がいるか、の答え」
「……あぁ、それか」
信号が青になり、今度はゆっくりと車を走らせる。
「何でだと思う?」
イザーナはちらりとアテラのほうに視線を向ける。アテラは顔を外に向けており、その表情は見えない。