二章 死神⑮
「くそっ!」
イザーナはそう悪態付きながら、走り去る車に視線を送る。そして、タクシーか何かはないかと、辺りを見渡し始める。だが早々にそんな都合のいいものは現れなかった。
何か手はないかと、道路を行きかう車を交互に見やる。それらを数秒眺め、深く息を吐く――決意した。
「おい! 止まれ!」
イザーナはそう言うなり、拳銃を取り出し道路に飛び出した。
こちらに向かってくる一台のオープンカー。それに乗る若い運転手が驚いた顔をしている。
「止まれ!」
彼はもう一度叫んだ。拳銃を握り締め、それを運転手に向ける。そして――
跳ね飛ばされた。
「がっ!」
腹部に衝撃が走ったと感じたとき、すでに勢いよく吹き飛ばされており、道路をごろごろと転がっていた。
「…………」
体が止まり、道路に寝転がった状態でしばらく痛みに耐える。無意識に頭を撫でると、強く打ち付けたのか、手にべっとりと血が付いた。
「……痛」
そう呟き、なんとか体を起こそうと、うつぶせに転がる。
「一体何があったの? 事故?」
「さぁ? でも男のほうから車道に飛び出したらしいよ」
周りから野次馬らしきものの声が聞こえてくる。
「それじゃあ自殺?」
「確かにあの男冴えない顔してるよね」
――余計なお世話だ。
体の節々が痛むが何とか体を起こし、立ち上がる。周りから、おぉ~まだ生きてたぞ、と声が聞こえてくる。
「くそ……」
――もっと早く教えてもらえば、楽に出来たってのに……。
イザーナは、この原因であるツズファのほうに無意識に顔を向ける。
その当人は、窓越しにこちらを指差して大笑いしていた。
――絶対あとで殺す!
顔をツズファから、律儀にその場に残っていた運転手に移動させる。
「おい」
そう話しかけると、その運転手はビクリと肩を震わせた。幽霊に遭遇したかのように顔が真っ青だ。