二章 死神⑭
「何言ってんだ、手前は」
「恥ずかしがる必要はありませんよ? お互いに分かり合ったような感じがしません?」
「しねえよ」
ぶっきらぼうにそう返すと、ツズファはクックック、と不気味な声を漏らす。
「あなたが自分のことを話してくれたのですから、私も大事な話をしましょう」
真っ直ぐにこちらを見据え、窓の外を指差す。
「あちらを御覧下さい」
言われるままに外を見る。三人組の見るからにガラの悪い連中が黒塗りの車に乗り込んでいるところだった。
「あれがどうしたんだ?」
顔を前に戻し、尋ねる。
「忘れましたか?」
ツズファは不気味な笑みをさらに不気味に歪ませ、ゆっくりと言った。
「あの連中」
「……あぁ」
「二十分後ぐらいですかね」
「……あぁ?」
「人を殺しますよ」
「…………」
イザーナは再び窓の外に顔を向けた。
「早く止めませんと」
黒塗りの車はやたらに響くエンジン音を吹かせて、発進した。
「……て、手前っ!」
イザーナはそう叫ぶと、急いで店から飛び出していった。
「アテラ」
イザーナの背中を見送りながら、ツズファはアテラの名を呼ぶ。
「何?」
「日が照ってきたようですよ?」
ツズファの言葉に、アテラは窓の外から空を見る。曇り空の一部分から僅かに日の光が覗いていた。アテラはしばらくその光を眺めたあと、
「うん、行ってくる」
そう言って立ち上がり、店の出口へと歩いていく。
「ちゃんと説明するのですよ?」
「……分かってるよ」
ツズファの言葉に、アテラはぶっきらぼうに答え、外に出て行った。
「……さて」
一人になったツズファは、軽く息を吐き、窓の外に顔を向けた。
「頑張って下さいね、イザーナ殿。頑張って――私を恨んで下さいね」
ツズファはやや悲しげに目を細め、もう一度息を吐いた。