二章 死神⑫
「何だ?」
語尾がやや上がる。ツズファはその顔のまま口を開く。
「何か特別な感情でも抱いているのですか? あの女に」
「……なっ、俺は」
イザーナは拳を握り締め、何か言おうと口を開ける。だが、何も出てこず、数秒視線を彷徨わせた後、ゆっくりと息を吐きながら、口を閉じた。
結局何も言い返せず、認めるような形になったが、それに対してツズファも何も言わず腕を組んで沈黙を守っている。
「…………」
アテラも食事の手が止まり、ウインドウ越しに外を見ている。
長い静寂。周りの声や音楽も風景として溶け込み、今この場の沈黙のみが、残っていた。
「俺は……」
何度経験しようと、慣れることは無いだろう。そう思いながら、沈黙を破る言葉を吐き出していく。
「確かに、あの子には、一種の特別な感情を抱いている」
ツズファは無表情にこちらを見ている。
「だが、恋愛感情なんかじゃない。この感情は別の――」
「娘」
突然の声。その声の発生源――アテラに顔を向ける。
相変わらず窓の外を向いていたが、こちらの視線に気付くと、横目で返してくる。
「それか妹、でしょ?」
その言葉に、イザーナは軽く口元に微笑を浮かべ、頷いた。
「あぁ――」
そんな感じだ、と言い、瞑目する。
「それまた何故?」
今度はツズファが問うてくる。
「……お前、この町がどんな町か、分かるだろ?」
「えぇ、救いようの無い町です」
「あぁ、そうだ」
遠慮のかけらも無い言葉に、頷く。そしてゆっくりと言葉を発する。
「実は俺は、警官になることが子供の頃からの夢だったんだ。警官は腐敗しきっていて意味が無いと友人に言われたが……それでも憧れたさ。こんな町だけど、俺は命をかけて、守りたいと思った」
「……それで、彼女は?」
「彼女――ウーノは、この町には似合わないほど、純粋な子なんだ」