二章 死神②
彼女はそいつの顔があるであろう、フードの穴の奥を凝視する。
「……あなたは誰……なの?」
そう言いつつ握られた手を振り解こうとするが、そいつは力が強く、離そうとしない。その間、そいつの頭が前後に動いた。何かを一人で頷いているのだろうか。
「……あなたは誰なの?」
再度尋ねる。
「答えなさい!」
恐怖からなのか、語尾の上がった声が無意識に吐き出されていた。
その言葉にそいつは、頷くのを止めた。
「あなたは不幸だ」
不快感を催す低い声が再び発せられた。
「神ではなく、あなたのほうを私は先に見つけてしまった」
そいつの肩が突然、全身を包む布地を持ち上げるほど大きくドクンと脈打った。
「私にとっては幸運なのでしょう。絶望と後悔しかない私にとっては……これ以上に無い幸運なのでしょう」
今度は彼女の手を握っているほうの腕が、ドクンと大きく脈打った。
「……!!」
彼女はそいつの異常さに肩を震わせ、再び手を振り解こうとするが、そいつの握る力はますます強くなっていった。
「っ! あっ……ぐ……!」
握られている手に痛みが走り、苦しみの声が喉の奥から漏れる。
「本当に不幸です。あなたは本当に不幸です」
彼女の様子に動じず、変わらない調子のまま、そいつは喋り続ける。
「でも仕方が無いのですよ。あと少しなんです。あともう少しなんですから」
「――――っ!!」
パキッという軽い音と彼女の悲鳴が重なった。
「恨むべきは私ではない。神だ。こんな訳の分からない規則を作った神を恨むべきなんだ」
鈍い音が走り、彼女の手からは血が滴り始めていた。
「あぁっ! てっ、手を、はな……してっ!」
彼女は必死に叫び、もう片方の手で、そいつの握る手を離そうとするが、そいつの力はさらに強くなる。
「私はただ救われたい。それだけなんだ……」
そいつはそう言うと、彼女の手を開放し、再び一人で頷き始めた。