一章 造神40
「生意気な女は放っておくと、どんどん付け上がります。ここでビシッと躾とお仕置きを」
「変態、馬鹿、傲慢、マゾ」
盾を得たことで気が大きくなったのか、アテラはさらに暴言を吐き続ける。ツズファの笑みがますます不気味なものへと変貌していく。
「アテラ? 仕舞いには――」
「スケベ、キザ、童顔、ホモ」
ツズファは、ゆっくりと息を吐き、静かに言った。
「……三日月。この意味分かりますか?」
「……すみません、ごめんなさい、悪かったです」
ツズファの言葉と同時に、突然アテラはヘコへコと謝りだした。
「……?」
突然の事態の収束にイザーナは眉をひそめた。
「おい、ツズファ。三日月って何だ?」
イザーナは訳が分からず、勝ち誇った顔をしたツズファに尋ねた。
「さぁ、何でしょう?」
ツズファはそう言って、いつもの不気味な笑みを浮かべ、笛をコートに仕舞った。
「…………」
答えを得られないかと、うしろのアテラを見る。アテラは不満気にツズファを見ていたが、こちらの視線に気付くと、挙動不審に辺りを見回し、何か言いたげにこちらを見つめてきた。
――言うときはビシッと言うくせに、変なときは内気だな。
そう思いながら、こちらから口を開く。
「どうした?」
「……あの……」
ちらちらと横に目をやる。
その視線を辿ってみると、それなりに賑わっている飲食店が目に映った。入り口には『ラージムーン』と書かれた看板が飾られている。
「……腹減ったのか?」
その問いに、アテラはコクコクと頷いた。
「アテラ、説教はまだ終わってないのですよ」
腕を組んだツズファがそう言うと、アテラは少し考える仕草をしたあと、ツズファの目の前に勢いよく、人差し指を立てた右手を突き出した。
「ふむ、そうですね……」
新しい挑発かと思ったが、どうやら何かのメッセージだったらしい。