一章 造神39
「……知っているでしょう?」
「知らないから聞いているんだよ」
その言葉に、ツズファは顔をアテラの方に再度向ける。
「まさか教えていないのですか? アテラ」
アテラはいまだにツズファを睨んでいたが、しばらくすると、わずかにツズファから目をそらした。その様子にツズファは、全く、とため息を吐く。
「呆れて物も言えませんよ。これは使命であって、我らの存在意義でもあるのですよ? それをあなたは――」
こちらの質問には答えずに、くどくどと説教が始まった。
イザーナも初めは傍観していたが、説教が長引くほどに、アテラの眼が涙目になってきたので、なんとなく可哀想になってきた。
「おい、その辺にしといてやれよ」
「甘やかしてはいけません」
ツズファは、こちらに冷たい視線を向けてくる。
「叱る時に叱る。これ大事です」
「やりすぎは良くねぇぞ」
「これぐらいやらないと駄目なのですよ、こいつは」
「てか、俺の質問の答えはどうなったんだよ」
今度はツズファとイザーナの口論が始まった。
アテラはツズファを見て、自分が意識の外に出たことを確認する。そして言い争う二人を交互に見比べたあと、こっそりとイザーナのうしろに隠れるように移動した。
「だからですね――って、何をやっているのですか、アテラ」
アテラは口を閉ざしたまま、イザーナの肩越しにツズファを睨む。そしてはっきりとした口調で言った。
「死ね」
「……いい度胸です」
ツズファは不気味な笑みを浮かべ、コートから笛を取り出し、口に当てる。
「……おい、ツズファ。何をやる気だ」
そう言いながら、ツズファの様子に嫌な予感がしたのでアテラから離れようとする。だが、アテラに服をしっかりと掴まれていて、動くに動けない。
――なっ、この女、俺を盾にするつもりか!?
「おい、ツズファ、落ち着け! 冷静になれ!」
イザーナの言葉にも、ツズファの笑みは変わらなかった。