一章 造神38
「あっ!」
ツズファと共に街道沿いに歩いていると、いきなりうしろから声が発せられた。何事か、と思い、二人同時に振り向く。
そこには一人の少女がいた。
「あ、あの……」
その少女は、彼らを交互に見つつ、しどろもどろに何かを呟くが、よく聞き取れない。
少女は男物のシャツとジーンズだけという、非常に寒そうな格好をしていた。肩まで伸ばした亜麻色の髪と、そこから覗く、燃えたぎるような赤い瞳が印象的だ。
その少女とは初対面のはずなのに、何故か初めて会った感じがしなかった。何か声を掛けるべきかと悩んでいると、突然、隣のツズファが目を見開き、大声を張り上げた。
「なっ、お前、アテラ! こんなところで何をしているのですか!?」
「アテラ?」
聞き覚えのあるその名前に、イザーナは眉をひそめる。
「え、いや……その……買い物?」
「何が買い物ですか!」
ツズファの叫びに、少女はビクっと体をすくませる。
「これは遊びではないのです! 時間には集合するようにと言っておいたはずです!」
ツズファのすごい剣幕に、少女は何も言い返せないのか、何かをこらえるような顔で上目遣いにツズファを睨んでいる。
「なぁ、ツズファ。一ついいか?」
そう、イザーナは尋ねた。
「何ですか? くだらない質問はしないで下さいよ」
ツズファがこちらに顔を向ける。珍しく怒っているようだ。
「こいつ誰だ?」
少女を指差して言った。その質問にツズファは一瞬考える仕草をしたあと、やれやれ、と言わんばかりに首を振る。
「そういえば、あの時、ちゃんと自己紹介をしたのは私とスザーノだけでしたね……」
無言で睨んでくる少女を横目に見つつ、ツズファは口を開く。
「彼女の名はアテラ。先程の話の中に出てきた三人目の導き手ですよ」
確かにツズファの長ったらしい説明の中にアテラの名が出ていた気がする。
「何で俺の導き手に女がいるんだ?」
ふと疑問に思ったことを口に出して言う。途端に、ツズファの眉が一気にひそめられた。