一章 造神37
「あなたのことは簡単なプロフィールぐらいしか頭の中には入っていないので、神になった理由は知らないのですよ」
その言葉にイザーナは、そうか、と呟いた。
「知っていると思ってた」
「何故?」
「……別に」
イザーナは大きく息を吐いて、だがな、と言って、ツズファを睨みつける。
「次は許さねえからな」
「……承知しました」
ツズファは帽子を取り、それを胸元に持っていき、深く一礼する。そして、その帽子をイザーナの前に差し出した。
「傷が目立つでしょう。どうぞお使いください」
「…………」
イザーナは黙ったままそれを受け取り、目深にかぶった。
「ところで……偶然か?」
「何のことです?」
イザーナは足元に倒れている細身の男をあごで示す。
「あぁ、その男のことですか」
ツズファは帽子の跡が付いた髪を弄りつつ答える。
「偶然ですよ。その男は適当に返すつもりでしたから」
「…………」
ツズファの顔を見る。その顔からは、真偽は測れなかった。
「運の無い奴だな」
「悲しいものですね」
ツズファは不気味な笑みを浮かべる。
「帰りますか。使命までは、まだ余裕があります」
「……そうだな」
イザーナは血が固まり始めた額を、指で弄りつつ、細身の男に視線を向ける。
「…………」
この男は何故あの男を殺そうとしたのか。どちらも死んだ今となってはどうでもいいことなのだろうか。
「スザーノに治療してもらいましょう」
ツズファはそう言って踵を返し、歩き始めた。
イザーナは、すまなかった、と小さく呟き、ツズファのあとを追った。