一章 造神36
「分かりました。では、まずどうやって殺したか、を教えましょう」
ツズファは、ゴホン、と軽く咳払いをし、コートから先程の笛を取り出す。
「私の力はこの笛を使い、さまざまな力を持った音色をかもし出すことが出来ることです。その音色によっては、人を癒すことも出来ますし、未来を見ることも、人の記憶を奪うことも出来ます。あなたの記憶もこの笛の音で封じました。そして先程の曲は、十六夜といいまして、指定した人間一人を自由に操ることが出来る音色なのです」
「……それで奴を殺したのか?」
「ええ」
その問いに、ツズファはあっさりと答える。
「何故だ?」
「……あなたはあくまでそっちを聞きたいのですね。いいでしょう」
ツズファは一呼吸置いて、口を開く。
「一言で言えば、私は奴が気に入らなかったのですよ。あいつはたいした力も持っていないくせに、マフィアの権力を自分の権力と勘違いし、好き勝手に商売や金貸しを行っていたのです。気に入らない奴は女だろうが子供だろうが容赦ありません。最低最悪の屑ですよ」
女だろうが子供だろうが――その言葉にイザーナは眉をしかめた。
「まぁ、あいつは最近組織の金にも手を出していましたから、私が手を下さずとも、いずれ組織に消されていたでしょうが」
吐き捨てるようなツズファの言葉に、そうか、とイザーナは呟き、襟を掴んでいた手を離す。
「……そうか――だけですか?」
ツズファは僅かに眉をひそめ、問う。
「ん、何が?」
「いえ……」
ツズファは少し言いよどんでから、口を開いた。
「絶対そんなの理由になるか――とか言ってくると思っていましたから」
その言葉に、イザーナは軽く鼻で笑う。
「言えねえよ」
ツズファに背中を向け、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「俺だって、同じような理由で――」
人を殺しちまったんだからな、と呟きに近い声で言った。
「そう――なのですか?」
「知らなかったのか?」
イザーナは意外そうな顔をして振り向く。