一章 造神35
「あなたの姿を見られるとまずいのですよ」
「姿……」
頬を伝った血があごからポタリと地面に吸い込まれる。
「……最後の禁止事項を教えておいたほうが良かったみたいですね」
そう言って、ツズファは笛をコートの中に仕舞う。
「最後の禁止事項。それは神を知りすぎた人間、教えすぎた神です。ちなみに処罰は神のほうが優先的に行われますから、ご注意を」
「……だからって」
さらに反論しようとするイザーナに、ツズファは冷たい視線を送る。
「何故殺してはいけなかったのですか?」
「何故――だと?」
ツズファの問いに、何かを答えようと口を開くが――何も言葉が出てこない。
「……ちゃんと分かっていますね。先程自分で言った言葉が」
――あいつは悪党なんだろ? そんな奴をどうして助ける必要があるんだ?
「…………」
「それなのにあなたは今、命の大切さ――ですかね? それを語った。矛盾していますよ。大人なら自分の言葉に責任を持ってくださいよ。それだから――」
「俺は神になったと?」
イザーナは先に言葉を取り、ツズファを黙らせる。
「勝手に解釈をするな。お前は自分で言っただろ。こいつを助けるのが使命だと。それを聞いているんだ。何故救うべきこいつを殺した?」
「あぁ、彼は救うべき人間ではありませんよ」
「は?」
突然の言葉に、間の抜けた声を出す。
「ですから彼は救うべき人間ではないので、死んでも構いません」
「なっ、じゃあ、何で――」
「試したのです」
質問が出る前に、ツズファは答えた。
「あなたが例えこれから救いようのない輩を救うことがあっても、ちゃんと使命をまっとう出来るかどうかを。あなたの性格を考えると、少し心配でしたから」
「おい、じゃあ――」
「どうやって殺したか、ですか? それとも、まだ何故殺したか、が知りたいのですか?」
「……両方だ」
イザーナは言葉を先に取られ、仕方なくぶっきらぼうに答える。