一章 造神34
耳の奥、さらに奥、脳が突き破られるような錯覚を覚えてしまうような――普通とは違う、狂った響き。麻薬のように甘美で、危険な音がいつまでも鳴り響く。
「――イザーナ殿」
再び名前を呼ばれ、はっと我に返ると、ツズファはすでに演奏を終え、こちらに顔を向けていた。
「見なさい」
ツズファは目の前の男をあごで示す。
「これが私の力」
そう言って、にいっと不気味な笑みを浮かべた。
「…………」
そのツズファの笑みに、嫌な予感がした。
視線を肥満体の男へと動かす。いつの間にか、男は銃を下ろし、だらんと腕を伸ばしていた。何があったのか、と眉をひそめていると、突然男は銃を自分のこめかみへと持っていく。
「なっ!?」
男の動作に目を見開いたと同時に、男の指が曲がり、シリンダーが回転。
「さようなら」
銃声。
そして男は――そのまま地に伏せた。
さらに男が倒れた衝撃で引き金が引かれたのか、再び発砲音。その弾道はイザーナ背後に倒れている男の頭部へと流れていった。
「…………」
イザーナは目を見開き、前後の倒れた男達を見る。二人の男の頭部からは血がじわじわと広がり始めていた。すでに息絶えているのは明白だ。
立ち上がり、男の死体から目をそらし、ツズファに視線を合わせる。
「……お前が」
やったのか? と、呟きにも近い声で問う。
「そうです」
ツズファは不気味な笑みのまま答える。
「私が殺しました。私の導き手としての力で。正確には死ぬように仕向けた、ですが」
イザーナは体を起こすと、早足にツズファに近付き、襟を乱暴に掴んだ。
「……何故殺した?」
体が小刻みに震えている。この感情は怒りなのだろうか。
「それは――」
ツズファは表情を変えないまま、少し間を空け、言った。