一章 造神33
「貴様、何をしている」
そう言う男の視線の先に、ゆっくりと顔を動かす。
そこにはツズファがいた。その手には、どこから取り出したのか、筒状の物があり、それを口元で横に構えていた。
「おい、貴様! 笛を吹くのをやめろ!」
その言葉で、それが東洋の古い笛ということを思い出した。
「おい! やめろと言っているんだ!」
男が逆上し、銃をツズファに向ける。
「十六夜」
銃を向けられているというのに、まったく動じず、ツズファは静かな、落ち着き払った声で言った。
「あなたは好きではありませんか?」
「訳が分からんことをほざくな! 殺すぞ、貴様!」
その言葉に、ツズファは笑みを浮かべる。
「それは嫌ですね」
「貴様っ!」
ツズファの笑みを挑発と受け取ったのか、男の顔は赤く、まるで茹蛸のような顔になった。元が丸いからそっくりだ。
――チャンスだ。今なら奴を取り押さえられる。
腕に力を入れ、半身を起き上がらせる。
「イザーナ殿」
「あ?」
突然名前を呼ばれ、体の動きを止める。
「よく見ていなさい」
ツズファはそれだけ言うと、再び笛を口元に当て、音色を奏で始めた。
よく通る音が重なり合い、一人で奏でているとは思えない奇妙な曲が鳴り響く。最初はなんとなく楽しい感じに聞こえるが、しばらく聞いていると、曲は全く変化が無いのに、何故か悲しく聞こえてくる。
「十六夜」
そう呟き、ゆっくりと笛を口から離す。
「意味はためらいです」
ツズファは深く息を吸う。途端、笛を強く吹き鳴らした。
「取り払ってあげましょう」
イザーナは一瞬、そのツズファの演奏に見とれていた。