一章 造神32
「…………」
一瞬動きを止め、イザーナは男の持つ銃をじっと見つめた。
――なんで、こいつの命を助けないといけないんだ。
先程の思いが再び頭の中に浮かぶ。それと同時に体が動き出し、銃を持つ男の手首を掴む。男の驚愕した顔と同時に、自分の体をひねり、相手の腕ごと持ってきて、銃のフレームを掴み一気にひねり上げる。
「がっ! き、貴様っ!」
手を離すと、肥満体の男は濁った目をこちらに向け、後退りした。今、銃はイザーナの手の内にあった。
「……こいつは殺すな。命を助けてやるんだから言うことを聞け」
そう言って、奪った銃を遠くに投げる。これで大丈夫だな、と息を吐く。と、同時――
銃声。
「!!」
イザーナは額に衝撃を受け、勢いのまま、後方――細身の男の上に倒れこんだ。
「馬鹿が。銃は二丁持っているんだよ」
そう言って、肥満体の男はげらげらと笑った。
「この私に偉そうなことをほざきおって。蛆虫が」
イザーナは男の言葉を聞きながら、額から流れる血を感じていた。
――マジで死なねぇな……。
改めて、自分が不死身だということを確認する。変な感覚だが、痛みを除けば、それほど悪い感じはしない。そして、体はそのまま、視線だけを動かし、肥満体の男を確認する。
――さて、こいつをどうしてやろうか。死なない程度に痛めつけるか……?
「さて、そっちの死に損ないも」
イザーナの目が動いていることには全く気付かずに、イザーナのうしろに倒れている細身の男に銃口を向ける。
――痛めつけるにしても、タイミングが大事だが……。
いつでも体を起こせるように、自分の腕と男の銃に意識を集中させる。その時――
「――――」
何かが、聞こえた。
「ん、何だ?」
肥満体の男にも聞こえたらしく、キョロキョロと辺りを見回す。
聞こえてくるのは――音だ。
それは、ゆっくりと流れ、自然の音にうまく溶け込み、曲となっていた。初めて聞く曲だが、どこか懐かしい感じもする。