一章 造神31
「あいつは悪党なんだろ? そんな奴をどうして助ける必要があるんだ?」
「酷い言い方ですね。どんな生き方をしようと、あのガマガエルは命を持っていて、それが今、奪われようとしているのですよ? それを助けようとは思わないのですか?」
「思うわけがない。自業自得だ」
「そういった考えをしますか。まぁ、そのせいであなたは神になったのですからねぇ……」
冷ややかな目と共に吐き出されたその言葉に、イザーナは目を細め、ゆっくりと言った。
「手前、何が言いたい……?」
「馬鹿だと言いたいのですよ」
ツズファは真顔に戻り、言葉を続ける。
「何故、殺すという手段しか思いつかないのですか? それ以外にもいろいろとあるでしょうに」
「なっ、俺はそういう――」
「な、なんだ、貴様はっ!?」
突然の騒がしい狼狽の声に、振り返ると、細身の男が、肥満体の男にナイフで襲いかかろうとしていた。
「やめろ!」
そう叫ぶが、こちらを見向きもせずに、細身の男は突っ込んでいく。
「くそっ」
走っても間に合わない。そう判断し、銃を取り出し、ナイフに狙いを定め、引き金を引く。
発砲音。
「あああああああああああああああああ!」
路地に悲鳴がこだました。腕に命中したらしく、細身の男は腕を押さえてうずくまった。
イザーナは、しまった、と内心舌打ちする。
「何を殺そうとしているのですか」
「黙れ!」
イザーナはそう叫び、銃を手に持ったまま、男の元に走る。
「おお、助かったぞ」
肥満体の男が、ガマガエルのような声で話しかけてくるが無視。まず細身の男の様態を見る。出血は酷いが、急所は外れており、弾も貫通しているようなので、命に別状はないだろう。
「まだ息があるようだな」
ひとまず応急処置をしようと、上着の裾を破こうとしていると、うしろから肥満体の男が喋りだす。
「お前何をやっている。そいつは私が殺す」
そう言って、にやにやと汚い笑みを出しながら、男は銃を取り出した。