一章 造神29
そこには全身を黒ずくめのスーツで統一した、肥満体の男がいた。何故かガマガエルを思い出す。
「誰だ、あのガマガエル」
そのまま口に出して言う。その言葉にツズファは呆れたように返す。
「失礼な人ですね、あなたも。あの男は、その筋にはそれなりに顔は知れ渡っているマフィアの下っ端の下っ端の下っ端ですよ」
「……つまり、あいつ自身はそんなに知れ渡っていないってことだろ?」
「正解です。よく分かりました」
「……で、誰なんだよ?」
「使命ですよ」
質問には答えず、ツズファは続ける。
「そしてそろそろ……あぁ、あの男です」
別の一角を指差す。
そちらに顔を向けると、今度は対照的に、がりがりのミイラのような男が路地から、こちらに歩いてきていた。目だけがギラギラとしていて不気味だ。
「よく行動が分かったな」
そう呟くと、ツズファがこちらに不気味な笑みを向けてくる。
「導き手ですからね。仕事はしっかりとやるのですよ。ちなみに何故分かったか、という質問ですが――私の力で事前に調べておいたのです」
ツズファは自分の額を指で叩きつつ、そう答えた。
「未来予知?」
「近い――ですかね。私はこの力を、晦と呼んでいます」
そして間をおいて、口を開く。
「さて、それでは使命のほうですが――」
「大方の見当はつく」
イザーナは煙草を吐き捨て、足でもみ消す。
「まず、あのミイラ男。多分ガマガエル野郎に復讐かなんかを企んでいる。そして返り討ちに遭い、死亡。それを阻止。こんな感じか?」
ツズファは、満足気な顔をするイザーナに、やや侮蔑をこめた視線を送る。
「返り討ち決定ですか。酷い人ですね。ちなみに人の話を聞かない奴は早死にしますよ。名言です」
ツズファの皮肉を無視し、イザーナは口を開く。