一章 造神24
「償い?」
思わず聞き返した言葉に、ツズファは頷く。
「よく宗教などで言われる地獄。簡単に言えば、これはそう言ったものになりますね。使命をこなさない限り永遠に死ぬことが出来ないのですから」
「地獄……って、神になることが?」
そう尋ねると、ツズファは呆れたように、ため息を吐く。
「全くあなたは……いえ、すべての人間もそうですけど、神という言葉を完全に勘違いしています」
ツズファは、いいですか? と人差し指を胸の前で振り、目を瞑った。
「神はあらゆる宗教でその形、また教えが違っていたりしますが、ほぼ共通していることがあります。それは世界の創造主であること。それによって、神は畏怖、また崇拝され、人間に禍福をもたらすものと言われてきました。ですがこの表現、半分は合っていますが、半分はハズレです」
「何だ? 神なんか本当はいないとでも言うつもりか?」
「黙ってください。説明中です」
「…………」
またもイザーナの眉が不快気に動く。ツズファは説明を続ける。
「まず正解の部分を答えましょう。神はいます。この世界を造った神は、本当にいます。しかし人間を導き、教えを説き、禍福をもたらすような神は存在しません。本当の神は――そうですね……見ているだけ――いえ、観察……良い言葉が思いつきません」
「傍観者か?」
その言葉に、ツズファは口元に笑みを浮かべる。いつもの不気味な笑みだった。
「お詫びします。あなたを馬鹿で小さい元人間とずっと思っていました。が、さすがに私の元となった御方。それなりの言葉はそれなりに知っているようで安心しました」
「殴るぞ、手前」
「お断りします」
そう言って、ツズファはククッと笑う。
「話がそれました。つまり神は傍観者。たとえ誰がどこで苦しもうと幸福になろうと一切神は無関係です。あなたが神と言われているのは償いとして人々を救っているので、その名が付いただけです。そのまま文字通り神になったわけではありません」
「ほう、それじゃ今から宗教団体に教えに行くか?」
イザーナがそう茶化すと、ツズファの目が僅かに細められた。
「話の論点をずらさないで下さい。確かに宗教的な神は存在しませんが、わざわざそれを否定する必要もありません。当てつけ、として神はこれ以上に無い存在ですから。全ては神のお導き、とでも言えば不正も正統性を持ちます」