一章 造神21
ツズファが同じく路地の奥に目をやる。
「この町では珍しくないのですか?」
「あぁ。奥に行けば死体も転がってるらしい」
「…………」
ツズファが不快気に目を細める。
「この町はどんな町なのですか?」
ツズファが再度尋ねてくるので、鬱陶しそうに煙を吐き出し、イザーナは町の説明を始めた。
この町の名はオウングロウ。
本国から少し離れたところにあった小さな島を埋め立て、拡大して出来上がったのがこの町だ。
本国からの入り口を先頭に、第一区画、第二区画と全部で五区画まである。
周りは海に囲まれており、町を出るには本土から伸びる、やたらと巨大で長い橋を渡っていかなければならない。つまり入り口も出口も一つということだ。
一応この町は観光名所の一つとして挙げられているが、それは二区画までの話。三区画からどんどん治安は悪くなり、一番奥の五区画に行く奴は頭がイカレた犯罪者か、自殺志願者だけだ、とまで言われている。
「ちなみにここは第三区画。まだ治安はいいほうだ」
「よくこんなところに住めますね」
「恋人にも言われたよ」
そう言って、煙を吐き出す。そして浮浪者のほうへ足を進める。
「追いはぎでもするつもりですか?」
「やらねぇよ」
浮浪者の前で腰をかがめる。浮浪者は、こちらの存在に気付いたのか、目を薄く開けている。
「よぅ、元気か?」
イザーナは口元に軽い笑みを浮かべ、煙草を取り出す。
浮浪者も、最初は怪訝な顔をしていたが、出された煙草を見て、ほぉ、と声を漏らす。
「イザーナじゃあないか。久しぶりだねぇ」
そう言って、煙草を一本抜き取る。
「そう言うあんたも相変わらずだな。煙草の銘柄で思い出すなよ」
そう返しつつ、ライターで火を付けてやる。
「……知り合いですか?」
二人のやり取りを見ていた、ツズファが問う。
「ん? あぁ」
イザーナは肩越しにツズファを見る。