一章 造神⑳
「……つまり俺はこの不死身の肉体で生まれ変わり、お前らは俺の元の肉体から生まれたってことなのか?」
「まぁ、そんな感じですが――あなたの不死身の体については少し違いますね」
少し間をおき、続ける。
「あなたが先程申し上げたとおり、今の体は元の体とは違います。簡単に言い表すなら、神の体、と言いましょうか」
「ひねりがねぇな」
「……横槍入れないでください。では肉体そのものが違うのに、何故あなたは元の体で生きていたときの記憶があるのでしょうか? 実はその体――あなたの体のコピーなのです」
「コピー?」
ツズファは、はい、と頷くと、話を続ける。
「髪の毛一本、細胞一つに至るまで、全てを完璧にコピーしております。ですから筋力の衰えも無ければ、記憶障害も無く、生前と全く変わらない姿でいられるのです。これぞまさに、神のなせる業、と言ったところでしょう」
「コピーねぇ……」
イザーナは、なんとなく自分の手のひらを見つめ、軽く動かしてみる。
「驚きでしょう?」
「……で、何でお前らが俺の肉体を宿す必要があるんだ?」
「質問に質問で返しますか」
ツズファは呆れたようにため息を吐き、再び説明を始める。
「それはあなたがあの世に向かうのに必要だからです。神の体はあなたの意思を持っているとはいえ、別の体ですから。元の肉体がないと人はあの世に向かえないのです」
「何で?」
「人を構成するのは魂ではなく肉体ですから。肉体が腐り果ててしまえば、あなた自身が消滅してしまいます。それは嫌でしょう?」
その言葉には何も返さず、煙草を地面に放り、足でもみ消す。
「マナーぐらい守ったらどうですか?」
再び新しい煙草を取り出し、火を付ける。
「肺ガンで死にますよ」
先程からのツズファの声を無視し、路地の奥に目をやる。
鼻につく臭いが漂う路地の奥に、随分年を取った、一人の浮浪者がいた。
寝ているのか、毛布にくるまって、身動きしない。
「本当に救いようの無い町だよな」
無意識にそう呟いていた。