一章 造神⑱
「ここはどんな町なのですか?」
「自分で調べろ」
ツズファの言葉に適当に返し、イザーナは煙草を取り出し、口にくわえる。
「……私は煙草の臭いが嫌いです」
「俺は煙草の匂いは大好きです」
ライターで火を付け、口にくわえたまま、ふぅ、と煙を吐き出す。
「こっちに向けて吐き出さないで下さい。刺激臭で吐き気がします」
「こっちに向けて戯言吐くな。気持ち悪くて吐き気がする」
そう言って、お互いに、ふん、と鼻を鳴らす。
今、彼らはアパートから少し離れた路地に隠れるように立っていた。イザーナが煙を吐く。
「時間が無いとか言っといて、随分のんびりだな」
吐き出された煙を鬱陶しそうに手で払いつつ、ツズファは答える。
「いろいろと知っておきたいことがありますから。お互いに」
「何を?」
ツズファは、いいですか、と前置きし、口を開く。
「私たちは昨日――あなたが死ぬと同時に生まれました。これは分かりますね?」
「あぁ」
イザーナは頷く。
「私たちは導き手として生まれました。それは何故か、分かります?」
ツズファの問いに、イザーナの、眉根が寄せられる。
「使命をちゃんとやるか見届けるためじゃないのか?」
その答えに、ツズファは首を横に振る。
「それも一つです。しかし、それ以外に最も大事なことがあります」
にいっと不気味な笑みを作る。
「その笑顔、気持ち悪いぞ」
「ほっといてください。そして話に横槍入れないでください」
いいですか、と前置きし、ツズファは続ける。
「私たちはですね――あなたの肉体を持っているのです」
「ほぉ」
「……なんですか、その気の無い返事は」
イザーナの反応に不満があるのか、ツズファは眉をしかめる。