一章 造神⑯
「おっと焦るな。治療していかねぇと」
立ち上がろうとしたイザーナに、スザーノが子供のような笑みを浮かべて、言った。
「……あぁ、任せた」
イザーナはそう言って目を瞑った。
やるぜ、とスザーノが言うと同時に、じゃり、とした感触と痛みが額に走る。だが、その痛みは、だんだんと薄れていき、やがて完全に消えていった。
「どうだ、俺の力は?」
目を開けると、スザーノがツズファの手鏡をこちらに向けていた。そこに映る自分の顔を凝視。額にあった弾痕が、まるで最初から何も無かったかのように綺麗に治っていた。
「さすがだな。お前の力」
「当ったり前だ。まさに自然を愛するが故の力だぜ」
褒められたのが素直に嬉しいのか、ふふん、とスザーノは鼻を鳴らす。
「力自慢はその辺でいいでしょう。イザーナ殿、行きましょう」
「それもそうだな」
ベッドから立ち上がり、玄関に向かう。
「ちょっと待てよ。この俺の自然講座はまだ終わってない――」
「黙ってろ」
「黙ってなさい」
「……分かったよ」
二人に同時に返され、スザーノはしぶしぶ、といった様子でその場に座り込んだ。
「兄貴、俺は留守番してるよ」
スザーノはそのまま寝転がり、背中越しにツズファに呼びかける。
「えぇ、お願いします。アテラが帰ってくるかもしれませんから」
おう、と短く返事すると、スザーノはそのまま静かになった。
「騒がしいやつだな、こいつは」
寝転がるスザーノを見て、イザーナはそう言った。ツズファは微笑みながら口を開く。
「それでもどこか憎めないでしょう?」
その答えにイザーナは、さぁな、とだけ答えた。
「イザーナ殿」
靴を履き、ツズファの前に立つと同時に、突然名前を呼ばれた。
「……何だ?」
「逃げないで下さいね」
「……何からだよ」
そう尋ねるとツズファは、いえ、と小さく呟き、玄関のノブに手を掛ける。