一章 造神⑭
「……スザーノ」
「……ん?」
突然名前を呼ばれ、スザーノは紳士帽の男のほうに顔を向ける。
「何?」
「何ですか?」
スザーノの言葉に男はそちらに顔を向け、聞き返す。その男の言葉に、スザーノは怪訝な顔をした。
「今呼んだだろ?」
その言葉を聞くと、男は、はっ、としたように目を開き、倒れている彼に顔を戻した。
「……?」
スザーノは、その行動を不可解に思い、再度尋ねる。
「なぁ、ツズファ兄貴。一体何なんだ? 何か用があるんじゃあないのか?」
「…………」
痛みが治まったのか、もうピクリとも動かない彼を見て、ツズファと呼ばれたそいつは、ただ一言。
「私は呼んではいません」
「…………」
スザーノはその言葉の意味が分からず、ただ黙り込む。
「いいですか、スザーノ」
ツズファは口元に不気味な笑みを貼り付け、言葉をつむぐ。
「……始まったようです」
「……何が?」
「それは――」
「神の使命」
その言葉はツズファの口から出たものではなかった。
ツズファはますます笑みを大きくし、スザーノは大きく目を見開いた。
「何を驚いてんだ、スザーノ」
その言葉と同時に、彼はゆっくりと体を起こし、ベッドに腰掛けた。
「あぁ、くそったれが。頭がまだ痛むぜ」
彼がそう言って、首を回している姿を見て、ツズファは笑みを貼り付けたまま、その場に跪いた。
「お待ちしておりました。イザーナ殿」
「……何のマネだ」
ふん、と鼻を鳴らし、彼――イザーナは軽く自分の肩をさする。