一章 造神⑪
「あん?」
向けられたそれが何か、確認しようと眼を凝らす。その瞬間――
轟音と同時に、額に殴られたような衝撃が走った。
「がっ……!」
くぐもった悲鳴が口から漏れた。衝撃で頭が後方にやられ、首がズキズキと痛む。無意識に右手を持っていき、首をさする。倒れた後頭部をゆっくりと戻していく。
彼が顔を前に戻すと、紳士帽の男は、両腕を組んで不気味な笑みでニヤニヤしていた。
「手前、いきなり何しやがる……」
突然の痛みで苛立ちが生まれ、やや怒気がこもった口調になる。
こちらの苛立ちを無視し、そいつは不気味な笑みをますます歪め、言った。
「生きていますか?」
「……は?」
突然の訳の分からない問いに、彼の口元からは空気が漏れたような音しか出なかった。その彼の態度を、聞き逃した、とでも思ったのか、今度はゆっくりと、きっぱりとした口調で男は言った。
「あなたは、今、生きていますか?」
「…………」
やはり訳が分からない。その変な質問にどう答えれば良いのか分からず、彼は頭の中で最初に浮かんだ、一番オーソドックスな回答を答える。
「見れば分かるだろ」
その言葉を聞くと、そいつは左手をコートに入れ、そこから手鏡を取り出した。
「ご覧ください。今のあなたです」
何をやりたいのかサッパリ分からず――だからと言って自分も何を言っていいのか分からないので、とりあえず促されるままに鏡を見る。
そこには先程見たときと変わらない――だが、何度見てもやっぱり胡散臭いと思う男が映っていた。
だが、一つ違和感があった。
額から鼻筋を通る一本の赤い線。無意識に指で拭い、これまた無意識に舌で舐める。思ったとおり鉄の味がした。
「…………」
視線を一瞬さまよわせ、眼前の男が右手に持つ物に合わせる。そして、改めてそれが何か、確認する。
その黒光りする物体は――拳銃だった。六連発のシンプルな銃。ここで、先程の衝撃を思い出す。