一章 造神⑩
「つまりだな……」
彼は頭をぼりぼりとかきながら、先程男が言った言葉を確認する。
「俺は神様だって?」
「はい、そうです」
そいつは真剣な顔で頷いた。
「それで不死身だって?」
「その通りです」
もう一度頷く。
「信じてもらえませんか?」
男の語尾に、やや心配の念が浮かぶが、彼は構わず頷く。
「信じられないね。そこまで人生に絶望していない……と思いたいが、俺はその手の話は嫌いなんだ」
そうであってほしい、と彼は思った。
何故なら、彼はまだ自分の記憶が定かではなかったからだ。おそらくこの二人は彼のことを知っているのだろうが、妙なことを平然と口走るような奴と知り合いだとは思いたくない。
ここで一つの考えが、彼の頭に浮かんだ。
こいつらはお互いを神様と言い合って喜んでいる脳のイカれた集団。そして俺はこいつらの仲間……。
――絶対に嫌だ。
「そうですか……」
そいつは目を瞑る。そして何かを決心したのかのような顔つきになり、おもむろに立ち上がった。
「スザーノ、準備をしなさい!」
「分かったぜ、兄貴!」
その突然の命令に、何が楽しいのか、スザーノは顔中に笑みを貼り付けて、そう叫んだ。
「なら、さっさと土を持ってきなさい! イザーナ殿が神であることを証明させる!」
大して離れてもいないのに、紳士帽の男は、またも大声で叫び返す。
その言葉を聞くと、スザーノは、ふん、と鼻を鳴らす。
「また俺を馬鹿にしやがって! いつも適量持ち歩いてるって言ってただろうが!」
「そうですか、それならいいのです」
スザーノの言葉に男は態度を豹変。すっかり落ち着いた雰囲気で、こちらに体ごと向ける。
「それでは、ご自分をよく見ておいてくださいね」
そいつはそう言うなり、右手をコートの中に入れ、そこから取り出した何かをこちらに向けた。