終章 酒場にいた男①
男の話が終わった。なんとも奇妙な話だった。
「おもしろかったかい?」
男はそう言うと、ククッと不気味な笑みを浮かべる。
「さて、あんたはこれからどうするよ? いや、この先どうしようか考えていたところなんだよ」
男がそう尋ねてきたが、私はそれには答えず、先程気になった、ひどく汚れている腹部に視線を送った。
「なぁ、教えてくれてもいいだろう? まぁ、話を聞いてくれたから別にいいけどな」
そう言って、男は立ち上がる。私は視線を上げ――
「……どうした?」
男は私の視線に気付き、不思議そうな顔を向ける。私は無言のままだった。
私は視線を固定したまま、口を震わせる。唸るような声が喉の奥から漏れる。私は視線をそらすことが出来なかった。男の――
背後に立つ黒い影から。
「……どうしたんだ? まるで――」
男は笑みを大きくする。
「――俺のうしろに死神がいるみたいじゃないか」
その男の言葉と同時に――影が一瞬消えたかと思うと――悲鳴を上げる間も無く――私は――
「最高の結末だろう?」
イザーナは先程まで男が座っていた椅子を眺めて、乾いた笑い声を上げた。
そして無言でグラスを拭いているバーテンダーに目を向ける。
「……また飲みに来るよ」
聞こえていないのか、バーテンダーは無言のままだった。その様子に軽く笑みを浮かべ、あんたは長生きするよ、とだけ呟いた。そして扉を開けて、外に出た。