三章 導神21
「……殺したいのなら殺しなさい。命乞いなどはしません」
イザーナを見返して、ツズファは口を開く。
「ですが、これだけは覚えておいてください。いずれあなたは――私に感謝することでしょう。そして、あなたは自ら望まぬ自分へと変貌していきます。これは、誰にも止められません。せいぜい――」
ツズファは大きな――不気味な笑みを浮かべた。
「――苦しみなさい」
銃声。
静かだった場所に響く突然の轟音。
だがすぐに音は消え失せ、辺りにはもう静寂が訪れていた。
「……ははっ」
イザーナは笑みを浮かべたまま、その場に銃を落とした。そして、ゆっくりと顔を上げ、再び空を見た。大きく広がる灰色の空。
「……なぁ、ツズファ。お前、分かっていたんだろ?」
雨が顔に容赦なく降り注ぐ。
「……俺が、お前の仕業だと気付くと――分かっていたんだろ? お前だって馬鹿じゃあないからなぁ」
笑い声が口から漏れる。最初は小さかったが徐々にそれは大きくなっていった。そして顔を下げる。
そこには――ツズファの死体が転がっていた。うつろな目で空を眺めている。
「覚悟――していやがったんだな。自分が殺されると……知っていたんだな」
イザーナは乾いた笑い声を上げながら、その場に跪いた。その目から流れている液体は雨水ではなかった。
「……くそったれ」
空を見上げる。灰色の空が一面に広がり、静かに見下ろしている。雨は止む気配を見せない。静かだ。何も聞こえない。聞こえてこない。目に雨水が入り、一瞬閉じる。
「……くそったれ」
彼はもう一度そう呟き、目を開けた。