三章 導神⑳
「私も一応――生きていますから。あなたが死神になろうものなら、私達はヨミの餌となる。そして……私達は死神のあなたとなるのです。私は導き手として生まれ、神の使命をサポートする為だけの存在……。それでも私は生きたいのですよ。命があるのですから」
「……知るかよ」
イザーナは冷たく言い放ち、ツズファの顔面を蹴り飛ばす。
「手前らがどうなろうと知ったことか。死ねよ。ヨミに食われりゃよかったんだよ」
銃を持ち上げ、狙いをツズファの頭部に定める。ツズファは顔を上げ、不気味な笑みを浮かべている。その口や鼻から血が出ていた。
「あなたは――」
ツズファはゆっくりと体を起こし、その場に跪く。
「あなたは――二度も自分を殺す気ですか? それも自分自身の為に」
「…………」
イザーナは無言のまま銃口をツズファの額に押し付ける。
「ツズファ、俺は……イカれた人殺しだ」
イザーナはゆっくりと口を開き、語り始めた。
「――俺の友人に、やかましいが、気の利く良い奴がいたんだ。ガキの頃から一緒に遊んでいてよ。そいつは将来、学者になりたいって言っていたんだ。だけど、一ヶ月前――死んじまった。殺されたんだよ。道歩いていたら、いきなり銃で撃たれてよ。救急車が来たときは、もう手遅れだった」
ツズファは無言のままイザーナに視線を送り続ける。
「犯人は――すぐに見つかった。二人組みで……しかもまだ十二歳のガキだった……。理由は……誰でもいいから撃ってみたかった、だそうだ。笑えるだろ? そんな屑に俺の友人は殺されたんだ……。だからな、俺は――殺してやったんだよ。刑務所から連れ出して……体に少しずつ弾丸ぶち込んでやってなぁ。助けてって泣き叫ぶそいつらを――徹底的に痛めつけて……殺したんだよ。楽しかったぜぇ……。あいつらが泣き叫ぶ姿は……最高だった。まぁ、すぐにばれたんだが。それで捕まりそうになったところを、あの銃で頭をズドンだ。それで……俺の人間としての人生は終わった」
話を締めくくると、イザーナは不意に空を見上げた。
「あの時も――こんな灰色の空だった」
表情は見えないが、その声はどこか悲しげだった。
「なぁ、ツズファ」
イザーナは顔をツズファに戻す。
「お前も泣くか?」
そう言って、口元に不気味な笑みを浮かべた。それはツズファがよく浮かべる笑みと酷似していた。