三章 導神⑲
「最初、記憶が戻ったとき、俺が自殺したときのことも、お前らが現れたときのことも思い出せた。だが一つだけどうしても思い出せないことがあった。それは――ミナと寝たことだ。俺が記憶を失って、朝目覚めたとき、お互いに裸だったから、大して気にならなかったが、その時のミナの言葉に一つ引っかかることがあった」
――なぁ、俺昨日酒とか飲んでいたか?
――いいえ。水なら馬鹿みたいに飲んでいたけど?
イザーナは銃を握る手に力を込める。
「お前言ったよな。自分の能力には水が必要だって。俺は普段水なんて飲まないから、お前しかいないんだよ。導き手も神なんだろ? そして俺の記憶を奪い、説明するとか言って、あまり動かないようにしていたからな。仕事で動く彼女のほうが死神に出会いやすかったって訳だ」
「……私が先か彼女が先かは、賭けだったのですがね」
ツズファはゆっくりと息を吐き、淡々と続ける。
「よく分かりましたね、さすがです。あなたの言ったとおり、彼女と性交を交わしたのは私です」
「何故だ!?」
イザーナは銃の撃鉄を上げ、叫ぶ。
「それは――あなたを助けるためですよ」
対照的にツズファは静かに言った。
「あの女――ウーノ。あなたは彼女に神のことを教えすぎてしまい、処罰を受ける。私の力の一つ、予知。それでそういった結果が出たのです。しかし神と人間の両方に罰が発生するこの禁止事項は、どちらか片方が処罰されれば、もう片方は処罰が免除されるというプログラムの穴があるのです。ですから私は確実な方法を選んだのです。それは――あなたの知り合いを死神にすることです。処罰には神が優先されます。しかしあなたを知る死神がいれば処罰は人間のほうに向かうでしょう。ですから私は彼女と寝たのですよ。あなたを助けるために――あなたを愛する死神が必要だったのですよ!」
「手前っ!」
銃底をツズファの額に叩きつけ、さらに顔に蹴りを入れる。
「糞がっ! 糞が糞が糞がっ!!」
さらに間髪いれずに殴打。ツズファは地面に転がり、苦しそうに咳き込む。イザーナは叫ぶ。
「何で……何でミナを巻き込んだ!? 助かる方法が無いなら放っておけばいいだろうが!」
「それでは――私が困ります」
ツズファは倒れたまま、肩を揺らして笑う。