三章 導神⑱
ツズファはエンジンを切り、車から降りる。
「ほら、こっち来い」
イザーナは濡れるのも構わずに、行き止まりの壁まで歩き、そこにもたれかかった。
「ここに何があるのですか?」
ツズファはそう尋ねながら、イザーナの元へ足を運ぶ。イザーナは自分の隣に立つツズファを確認すると、笑みを浮かべたまま、ツズファの肩に手を置いた。
「思い出しちまったんだよ」
そう言うなり――イザーナはツズファの腹部目掛け、膝を叩き込んだ。
「がっ!」
ツズファは突然の衝撃に耐え切れず、前のめりになった。さらに背中にひじを落とされ、その場に跪く格好になる。
「な、何を……」
痛みに顔を歪めながら、視線を上げる。それと同時に――
ツズファの額に銃が突きつけられた。
「…………」
ツズファは無言のまま、イザーナの顔を窺う。無機質な――人形のような目をこちらに向けていた。そんな彼の様子に、ツズファは不気味な笑みで返す。お互いに視線を交わし続ける。
「ツズファ」
イザーナが静かに口を開く。
「もう分かっているんだ」
寒さのせいか、銃を持つ手が、かすかに震えている。ツズファは、そうですか、と小さく呟く。
「ミナを――」
イザーナの顔が歪む。
「ミナを死神にしたのは、お前なんだろ?」
その言葉に、ツズファは表情を変えず、ゆっくりと頷いた。
「どこから――分かっていましたか?」
銃を突きつけられているというのに、相変わらずの物静かな声。イザーナは僅かに目を細め、口を開く。