三章 導神⑰
「ヨミの声がしたものですから」
イザーナは振り返り、説明を求めるような目をツズファに向ける。ツズファはゆっくりと説明を始める。
「ヨミは死神の導き手のようなものですよ。ただし導き手とは違って肉体から生まれるのではなく、怨念から生まれます。ヨミは本質的には飢えた獣と同じです。だからなのか人の姿はしていません。そして彼らは――」
「処罰対象の肉を食らって、そいつも死神にするんだろ?」
イザーナは、ククッと不気味な笑みを浮かべ、煙を吐き出す。
「その辺は分かってる。奇妙な姿をした化け物が、死神の体から這い出てきて、俺に襲い掛かってきたからな。そしてウーノも俺の目の前で――」
食われた、と遠い目をして言った。
「あそこに死神がいたのですか?」
「……気付かなかったのか?」
イザーナは驚いた様子でツズファを見る。
「あれは本来見えないものなのですよ。あれを見ることが出来るのは――処罰対象、その人だけです」
「……俺には見えていたぞ?」
「それは――」
運がよかったですね、とツズファはぎこちない笑みを浮かべた。
「……そうだな」
イザーナはそう呟くと、窓の外に目をやり、指で左を示す。
「先程から気になっているのですが……」
車を左折し、明かりの少ない道を走らせる。道幅が徐々に狭くなっていく。
「何だ?」
イザーナは外を眺めたまま煙草をくわえている。表情は確認できない。ツズファは横目でイザーナに視線を送りながら、ゆっくりと口を開いた。
「町の出口から遠ざかっているような気がするのですが」
その言葉を聞いた途端、イザーナは肩を揺らし始めた。笑っているのだろうか。
「……大丈夫だ」
方向は合ってる、とイザーナは答えた。
車は薄暗い道を走っていく。そしてしばらくして、狭い角を曲がったところにあったものは、コンクリートの壁だった。
「…………」
行き止まりのため、ツズファは車を止め、隣に視線を向ける。イザーナは、ドアに手を掛け、降りろ、とあごで示した。