表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IZANAGI  作者: 佐久謙一
100/108

三章 導神⑮




 降りしきる雨の中、ツズファは車を走らせていた。

「次を左だ」

 助手席に座るイザーナが指示を出す。車は左折し、狭い道を通っていく。

「……何か聞きたいことがあるんじゃないか?」

 無表情で運転をするツズファに、イザーナは疲れきったような目を向ける。

 ツズファは何も答えず、黙々と走らせる。その様子に、イザーナは大きく鼻を鳴らし、だんまりかよ、と呟く。外に目をやり、流れる風景を眺めながら額を弄る。かすかに指の先に血が付いた。静かなエンジン音だけが鼓膜を響かせる。大きくため息を吐く。

「……次も左だ」

 再び指示をし、煙草をくわえ、火を付ける。

「なぁ、ツズファ」

「……なんでしょうか?」

 ツズファは顔の向きを変えず、小さい声で返す。イザーナは外を眺めたまま、ぽつぽつと語り始める。

「……彼女は――ただ普通の恋を求めていただけなんだ。ただそれが、人より少し狂っちまっただけなんだ」

 窓に向かって煙を吐く。ガラスが一瞬曇る。

「彼女は学生時代に暴行を受けたらしい。それも――好きだと告白した男から、集団でな」

 イザーナは、吐き気がするな、と呟く。

「だが彼女は暴行を受け入れていたらしい。そんなものでも愛してくれているんだと――彼女は思っていた」

 こちらに顔を向けず、指で右を指す。ハンドルを切り、右折する。

「そしてしばらくして――彼女は身籠った。だが父親は分からなかった。集団に暴行受けたんだ。誰の子供かなんて分かるわけがない」

 イザーナは突然肩を揺らして笑い出した。

「それで彼女はどうしたか。最初に告白した男に打ち明けたそうだ。そしたらどうしたと思う、その男は?」

 イザーナはツズファに顔を向け、静かに言った。


「崖から突き落としたそうだ」


「…………」

 ツズファは黙ったまま運転を続ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ