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鏡像Ⅱ

作者: ちと
掲載日:2026/04/10

旧仮名遣いに挑戦して書いたものパート2。やはり読み難い書き難い。あまりに優しくない。擬古文なんかしようものなら、これは一体誰が読むんだって話になる。かっこいいけど。Ⅰ~Ⅴくらいまで続けようと思っていたけれど、旧仮名遣いはワードにはあまりに向かないってことで、没になりました。無念。

 湖畔に乱れ咲く、可憐なふりをした水仙を眺めてゐると、突然、視界に見知らぬ女が這入つて来た。わざ〱、私の前に立ちふさがるやうにして、彼女は私をじつと見つめてゐるやうである。逆光で顔はよく見えないが、その立ち姿が何となしに美しいやうな気もするし、取り立てて際立つたものでもないやうな気もする。いづれにせよ、その意図を推察することさへまゝならない。

 動く気配のないまゝ、彼女は私の貌を見つめ、何やら見惚れてゐるやうである。しかし、私の貌に見惚れてゐると言ふ訳ではない。一体、彼女は私を通じて何を見てゐるのだらう。あまりに長いこと動かないまゝでゐるために、彼女の姿がすつかり水仙の花と同化してしまつて、見分けがつかなくなる。否、彼女は元々、巨大な水仙の花ではなかつたか。彼女は私の前に現れたのではなく、元々そこに居たのであり、彼女が私を見てゐるのではなく、私が彼女を見てゐるのではないか。

 私は湖に近づいて行く。草や土のにおいが遠ざかり、潮のにおいとは又違ふ淡水の独特な香りがする。湖面を覗き込むと、私の姿が水面に映つた。私の貌は、巨大な水仙の花に覆われてゐた。

 これが今朝、私の見た夢である。思ひ返せば、私の眼前に立ちふさがつた女の姿は、かつての私の恋人とよく似てゐた。立ち姿の美しい女だつた。猫背の私とは比べるべくもなく、何か別の生き物のやうに背筋が綺麗に伸びてゐた。それでゐて、自信のないやうなところがある人間で、殊更私の言葉を欲するやうなところがあつた。それが煩はしくも、又、人間らしくあつて、好もしかつた。私の口を借り、私以外の誰かから掛けて欲しかつた言葉を聞き、自らを慰む。彼女にとつて、私は彼女自身であり、また他の誰かであつた。私が私であつたことなど、一度もなかつた。

 彼女は度々、己が美しさを確認するやうに私に一々、賛辞の言葉を求めた。それはまるで己の姿を鏡で見つめるが如く。私のことを愛してゐるやうで、その実、彼女は私と言ふ湖面に映る彼女自身を愛してゐたのだつた。

 尤も、恐らくこのやうな児戯に耐へきれなくなつたであらう彼女は数年前に自ら毒を飲んで死んでしまつた。私は彼女の墓前に、厭味つたらしく水仙の花を手向けたものである。

ナルキッソスは自らの姿に恋をしたと言ふが、さて、美しい人々の増えた現在では、果たして彼が己の鏡像に恋をするものなのだらうか。その答へを知らうにも、ナルキッソスはもはやいなくなつて、聞き出すことができない。

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