006★ファンレター
それはもう、とっておきの誕生日プレゼントだった。
あの試合、9回裏に逆転されて、サヨナラ負けだった。
それでも、大好きな長谷川がホームランを打ってくれた。
そしてボールが今、手元にある。
勝ち負けに関係なく、本当にうれしかった。
「ファンレター、書かないの?」
「ファンレター?」
「そう。だって、嬉しかったんでしょ?それを選手に報告しなくちゃ」
母からそう言われた。
長谷川にファンレターを書こうとしている燈和。
だけど、何を書いたらいいのか思い浮かばない。
とりあえず、パソコンでファンレターの書き方を調べた。
「まずは、挨拶と自己紹介…受験生です的な?」
できるだけ丁寧な字で、手紙を書き始めた。
書き方の通りに書いて行くと、1枚半になった。
そして、文章がおかしくないか読みなおした。
ごく普通の、ありきたりな手紙のように思えた。
何のインパクトもなく、つまらないものだった。
「これじゃ、ダメじゃん」
くしゃくしゃにした紙を、ゴミ箱めがけて投げた。
いつもは入らないのに、今日は運よく入った。
「おっ!ストライクっ!」
インパクトのある手紙にしたい。
そう思うと、ますます何から書けばいいのか悩む。
とりあえずという事で、自己紹介的なものは書いた。
あとは内容。
どう伝えたらいいのか…
――――とりあえず、手紙書く理由を考えてみよう
手紙を書く理由はただ一つだった。
あの感動、喜びに感謝したい。
お礼が言いたい。
ただそれだけのことだった。
「それだっ!」
燈和の手が動き始めた。
動き始めると止まらない。
どんどんペンが進む。
書き終えると、封筒に住所を書いて、切手をはった。
急いで家を飛び出し、近くのポストへ向かった。
夏の暑さよりも、この手紙がしっかりと届いてほしいという思いの方が強かった。
――――しっかり、届きますように!!
燈和は、ポストの前で手を合わせていた。