005★誕生日プレゼント
燈和に朗報が舞い込んできた。
燈和の誕生日、7月20日に試合がある。
その試合に、母が連れて行ってくれるというのだ。
働いてためたお金で、試合に連れて行ってくれる。
感謝、感謝の一言だった。
学校の授業時間も、1日も、早く感じた。
夏休み中に試合観戦。
しかも、それは誕生日プレゼント。
最高としか言いようがない。
浮かれ過ぎに注意しながら、その時を待った。
そして20日。
教訓を生かしながら、試合会場に早く着いた。
それでも先客はいる。
今回は、わりといい席が取れそうだった。
選手の応援歌も覚えて、グッズもそろえた。
お年玉を使って、ユニフォームとタオル。
もちろん、長谷川の背番号22の入ったものを。
「ここでいい?」
「燈和の好きなところにしなさい」
「ありがと」
母は、いつも他の人に若く見られている。
確かに、この年にしてはかなり綺麗だと、家族ながら思っていた。
ときどき、友達と思われる事もあった。
それは、わりと燈和が大人っぽいってこともあるのだけど。
選手はウォーミングアップを始めていた。
長谷川の姿もあった。
思いっきりタオルを広げて、高く掲げる。
すると、それに気づいたのか、手を振ってくれた。
また、燈和だけに振ったように見えた。
だけど、これまた周りにはたくさんの女性ファンがいる。
――――いっつも勘違いしちゃうから…もしかすると、私みたいに思ってる人いたりして
とか思ったりしていた。
試合が始まると、さすが相手は去年の2位。
強くて、投手戦と言ったら投手戦。
打撃戦と言ったら打撃戦。
意味の分からないことを言ってるようだけど、本当にそうなのだ。
0対0のまま8回終了。
ただ、両チームとも2ケタ安打。
9回、長谷川に5回目の打席がまわってきた。
タオルを掲げて、みんなと一緒に応援した。
「かっ飛ばせーっ、長谷川!」
粘って、粘って、粘って…
9球目くらいだろうか。
力強くバットを振り、ボールは芯に当たった。
打球が燈和の方へ飛んでくる。
――――あ、あぶないっ!!
目をギュッと閉じて、縮こまった。
ボールは、燈和の座っていたベンチの背もたれにあたった。
そのまま背中にボールが伝って行くのが分かる。
「ボール…」
初めはボールが飛んできたことしか頭になかった。
でも、よく考えるとホームランだ。
9回表、長谷川のホームランで1点とったのだ。
ボールは飛んできて、今手の中にある。
長谷川のホームランボールだ。
そして、いちだんと大きくなった応援は、燈和の誕生日を盛大に祝っているようだった。
嬉しさのあまり、涙が出てきた。
――――こんなに嬉しい誕生日プレゼント、初めてだよ…
ボールを強く握りしめ、タオルに顔をうずめた。