004★受験生、燈和
あの試合のことが、今でもよみがえってくる。
初めて生で見た試合。
すごく感動した。
リーグ戦ではないものの、しっかりとした公式戦なわけだから。
チケットは、今でも大事にとっている。
フォトブックの1ページ分、チケットで使っていた。
学年1つ上がって、中学3年生になった。
受験生と周りは言う。
だけど、燈和には全く自覚がない。
毎日、家に帰ってきたらテレビ。
しかも、野球中継。
宿題は、ほとんど学校で終わらせてくる。
普通の家庭なら、家で宿題をしている時間帯。
野球中継真っ最中。
食事の時間も野球を見ながら。
なぜこんな事になってしまったのか。
それには、大きな理由があった。
中学1年の終わりごろ。
親が離婚し、燈和は母方についた。
毎日、遅くまで働くようになった母。
正直、家に1人でいる時間は寂しかった。
ふとテレビをつけた時、ちょうど野球中継があったのだ。
9回の表、大ピンチを迎えている。
そう解説者は言っていた。
背番号17のピッチャーが、汗をかきながら必死でサインを見ている。
ランナーを気にしながら、投げた。
判定はストライク。
この瞬間、燈和の中に何かが生まれた。
凄いという感情に加えて、ハラハラ、ドキドキするような感覚。
野球には、1人でいる寂しさを忘れさせてくれる力があった。
燈和は、野球中継を見た後すぐ風呂に入って寝た。
夢に、長谷川が出てきた。
最近しょっちゅう出てくる。
それだけ考えているのだけど。
あれから長谷川は、ライトのレギュラーに定着しつつあった。
ほとんどの試合、ライトを務めている。
そして、打順は8番から上がった。
最近よく6番を打つ。
近い将来は4番を打たせたい、と監督は言っていた。
――――また長谷川選手、見たいなぁ…
その思いが、徐々に強くなっていった。
ただし、今年は試合に行くことが出来ないだろう。
正真正銘、中学3年の受験生なのだから。
キャンプシーズン中に、推薦ならば受験がある。
キャンプも諦めることになるのか…
燈和には考えられなかった。