035★傍にいる
ピ~ンポ~ン…♪
ガチャッ
「いらっしゃい」
長谷川は、笑顔で出迎えてくれた。
でもその笑顔は、燈和の大好きな笑顔ではなかった。
どこか辛そうな、悩んでるような笑顔だった。
長谷川は、部屋着を着ていた。
パジャマみたいだけど、そうでもないような感じ。
初めて見るから、また新鮮だった。
そして、髪はちょっとボサボサ。
あとは、机の上に薬が置いてあった。
「大丈夫…じゃなさそうだね」
「うん、なんかいっぺんに来ちゃったって感じだよ」
「だよね…」
燈和は、先ほど買ったお茶などを冷蔵庫に入れた。
どうせ買い物もできてないだろうと思ったから、買ってきたのだ。
案の定、冷蔵庫の中はスカスカだった。
「ありがとね。俺、何にもしてなかったから…」
「いいよ。これくらい、私にはどってことないし」
「すっごく助かる」
そう言いながら、大きな手で頭をなでた。
やっぱり子供扱いされている、と思うけど、落ち着く。
長谷川の手は、大きくて指が細くて綺麗で…
でも、手の平にはマメがあって。
努力の証が、たくさんある。
燈和はこの手が大好きだ。
「無理、したでしょ?」
「何で?」
「手のマメ、あんまり古くないから…」
「あ、あぁ…うん、あんまり動くなって言われてるけど、やっぱり…ね」
「でも無理すると、ますます復帰できるのが遅くなるよ」
「…そうだよね。反省する」
「でも、努力することはいいことだと思う。努力あってこそのはせさんだもん」
燈和は、料理を作ってあげた。
最近ずっと、インスタント食品ばっかり食べていたらしい。
いつもは自分で作っているみたいだけど。
長谷川は、おいしそうに食べてくれた。
それが何よりもうれしかった。
洗い物をしていると、テレビで試合を見ていた長谷川がキッチンへやって来た。
そして、手伝いを始めた。
「いいよ、私がするって」
「でも、なんか任せっきりってのは…」
「大丈夫だよ。家でもこんな風にやってるし」
「そっか、1人暮らしだったっけ?」
「うん」
「だから慣れてるわけか」
「そうだよ。だから、ゆっくりしてて」
「ありがとう。すっごい助かるよっ」
そう言うと、頬に軽くキスした。
燈和は一瞬、皿を落としてしまいそうになった。
かろうじで、それはなかったけど。
洗い物が終わって長谷川の方に行くと、テレビをつけたままで寝ていた。
その寝顔は、いつ見ても可愛い。
とても30歳には見えない。
もっと幼い…もしかすると、10代でも通るかもしれない。
それほど可愛い。
燈和はテレビを消して、長谷川に布団をかけてあげた。
そして、ソファの隣で眠りについた。




