003★8番ライト、長谷川
プレイボール。
長谷川のいるチームは、後攻。
だから、今は守備についている。
ポジションはライト。
もとはセンターだったらしいけど、このチームには不動のセンターがいる。
だから、いつもコロコロ変わっていたライトに入れられたのだ。
下を見ると、長谷川がいる。
ちょっと視力が悪いから見づらいけど、生き生きしてるように見えた。
相手バッターが、バットを折りながらも打ってきた。
思った以上にボールは伸びて、長谷川の前に落ちた。
緊張していたのか、手元で戸惑っている。
すぐさま相手ランナーは2塁へ向かった。
2アウト2塁。
続く4番バッターは、去年のホームラン王だ。
かなりの強打者で、得点圏にランナーがいる時にめっぽう強い。
豪快なひと振りで、打球はバックスクリーンに直撃。
ホームランを打たれてしまった。
1回の表、2失点。
その後、ランナーをためながらもしっかりと3アウトにした。
1回の裏は、3者凡退で終わった。
2回以降、得点が入らなくなった。
長谷川の初打席は、見逃しの三振。
そのまま8回の裏。
2アウトながらも、ランナー3塁のチャンス。
バッターは長谷川だった。
「かっ飛ばせーっ、長谷川!」
きれいなフォームの長谷川。
1球目は見送ってボール。
2球目は、バットに当てたけどファール。
3球目、4球目とボールが来て、1ストライク3ボールとなった。
相手ピッチャーは、思いっきり腕を振って投げた。
そのボールを、バットの芯に当てた長谷川。
レフト方向へ一直線。
惜しくもホームランにはならなかった。
だけど、俊足も生かして3塁打になった。
そして1点を返した。
1塁側外野は、大歓声が上がっていた。
9回の裏、長谷川は交替した。
代打で出てきた選手が2ランホームランを打って、サヨナラ勝ちをした。
会場は、地響きがするほどうるさかった。
けど、それがよかった。
燈和は、あの瞬間を思いながらバスを待った。
やっぱりここには子供、もしくは女性ファンばかりだ。
ここに紛れて、また帰ってくる選手に手を振っていた。
7人目に、長谷川が来た。
いちだんと歓声が大きくなる。
燈和は、再び大きく手を振った。
すると、今日もまた振り返してくれた。
周りの人も振っていたけど、どうしても目があったように思ってしまう。
自意識過剰なだけなのか…
――――気のせい、なんだよね…?
変な感覚にみまわれながら、燈和は帰りの電車を待った。