014★揺れるココロ
雨はやまない。
何となくだけど、長谷川はさっきよりもきつそうにしている。
――――本当に大丈夫なのかな…?
「熱…まだかなりありますよ。早く救護室とか行った方が…」
「…でも、正直まだココにいたいんだ。救護室って、一般の人入れないから」
それをどういう意味で受け取ったらいいのか。
燈和は、今まで悩んで困っていたことを思い出した。
これっぽっちも思ってないくせに、その気があるようにふるまう。
好きだけど、ちょっとだけムカつく。
「あの…率直に聞きます。長谷川選手って、ドSですよね?」
「う~ん、そうなのかな?分からない」
――――いや、明らかにドSだって
雨がやむ気配はなく、雷が近づいてきた。
徐々に音が大きくなってくる。
燈和は、その場にうずくまった。
「…雷、怖いんだったね」
「はい…」
長谷川は、燈和の隣に座った。
燈和は驚いたけど、このままでいたいという気持ちの方が大きかったみたいだ。
今、実際に燈和の心は揺れている。
長谷川が好き。
でも、長谷川にその気はない。
だから、真田に逃げているだけ。
でも、真田も嫌いじゃない。
ピカッ!
ド――ンッ!
「ウキャっ!!」
ゴチンッ
燈和は、驚いた勢いで柱に頭をぶつけた。
ジンジンする。
「ったぁ~…」
「大丈夫?」
「私は大丈夫です。頭、丈夫なので…長谷川選手の方が心配ですよ」
「俺はこんなのも慣れてるから、大丈夫だよ」
「でも、やっぱり目がトロ~ンってしてきてるし」
「うん、ちょっとボーってする」
「やっぱり救護室に――」
「お願い、もうちょっとだけココにいてよ。ねっ?」
どうして連れて行かないんだ。
長谷川は、本当はものすごくきついはずだ。
なんで連れて行くことをそんなに拒むのか。
燈和は、長谷川の頼みを聞かないわけにはいかなかった。
こんな風に話が出来るのも、今だけなのかもしれない。
だから…という思いが強かった。
「ねぇ、彼氏君のこと、好き?」
ストレートに聞かれると、答えづらい。
でも、そう言われて考えてみた。
本当に真田のことが好きなのか。
「嫌いじゃありません。でも…」
「でも?」
「…正直、好きでもありません。もちろん、人としてはかなりいい人で…」
「やっぱり、そうなんだ」
「や、やっぱり?」
「何となくそう思ってたんだ」
――――エ、エスパー…
もしかすると、真田も気づいているのかもしれない。
その前に、燈和自身の行動が表していた。
2人でキャンプを見に来ても、燈和は1人でサインをもらいに行く。
正直、真田よりも選手の方が好き。
それに、知らないうちにいつも長谷川を追っていた。
バッティング練習も、ノックも、移動中も。
やっぱり、燈和は長谷川が好きだった。
世界で1番、誰よりも好きだった。