011★妃奈乃の説教
夏休み明け、いまだにあの火照りが覚めていないようだった。
そんな気もないのに…
本気で燈和は悩んでいた。
授業は、まともに受ける事が出来る。
だけど、妃奈乃と話す時がちょっと辛かった。
「長谷川選手にさぁ―――」
「///」
「ど、どうしたの?」
「い、いやぁ、何でもないよ。長谷川選手がどうしたの?」
「ファンレター送ったんだけど、やっぱ返事来ないよね?」
「う~ん、今1番人気の選手だからねぇ」
球界のスターと言われている。
だから、ファンレターくらい山ほど来るはずだ。
この前のインタビューでは、人の倍以上来るとか言っていた。
「燈和さぁ、修司君のことどう思ってる?」
「真田君?どうって…野球少年」
「そういう意味じゃなくて…ほら、カッコいいでしょ?真田君って」
「カッコいい…それだったら長谷川選手の方が―――」
「燈和!もっと現実的な恋しなよっ!長谷川選手は、人気選手なんだからねっ!!」
これだけ面と向かって妃奈乃に言われたのは、初めてだった。
燈和自身も、現実的な恋をしないといけないことくらい、十分承知していた。
だけど、やっぱり理想は長谷川。
それ以外、考えられなかった。
「私にはさぁ…こう、なんて言うか…現実的な恋?とか言うの、向いてないみたいなんだ」
「そうだよね!燈和は、ただ人をその気にさせておくだけだよねっ!!」
「そんな言い方ないでしょ?私がいつそんな汚いことしたっていうの!」
「やっぱり気付いてないじゃん!修二君、燈和のこと好きなんだからねっ」
――――は、初耳…
真田は、学校でかなりモテている。
告白された回数なんて、人の倍以上あるはず。
燈和の記憶上、確か妃奈乃も真田のことが好きだった。
「…真田君、いい人だけどね。やっぱ私には長谷川選手しかいないんだ」
「燈和ならそう言うと思った。でも、修二君に話さないと、私が許さないよ」
妃奈乃はそう言って、鞄を持って帰って行った。
その場に1人残された燈和は、机の上に崩れ落ちた。
自分がどんな人なのか、さっぱり分かっていない。
妃奈乃に言われて、気付いた気がした。
周りの人にいい顔ばかりして、優しくて出来る人ぶって。
実際そんな器用な人じゃない。
自分で自分を苦しめていた。