8話
美々は購入した装備品を、迷宮に併設されている貸しロッカーにしまった。
貸しロッカーは探索者カードと連動しており、カードをかざすとロックが開閉される。頑丈で監視カメラも設置されているため、盗難の心配はない。
そして翌日。
ついに迷宮に初挑戦する日がやってきた。
併設されている更衣室で装備品を身に着け、鏡の前に立つ。
軽いカーボンジャージにプロテクター、ヘルメット、フェイスガード。そして手には特殊警棒。
美々は鏡の前で軽くポーズを取る。
「……なんか、強くなった気がする」
迷宮の入口は、蜃気楼のように空気がゆがんで見えていた。
少し躊躇ったあと、美々は意を決して足を踏み出す。
当然だが、一緒に迷宮へ行ってくれる友達はいない。
周囲ではチームを組んだ探索者たちが次々と入っていく中、美々は一人で入口をくぐった。
入口を通った瞬間、薄い膜を突き抜けるような感覚。
一瞬の暗転。
そして次の瞬間、美々は迷宮の中に立っていた。
洞窟型の迷宮だった。
光源はないのに、真っ暗ではない。薄暗い程度の明るさが保たれている。不思議な空間だ。
胸がドキドキしている。
興奮なのか、それとも緊張なのか、自分でも分からない。
迷宮の入口周辺は、モンスターが入ってこないセーフエリアになっている。
美々は深呼吸をした。
吸い込んだ空気は、少しひんやりしていた。
「……よしっ」
覚悟を決めて歩き出す。
とはいえ、いきなり奥へ進む度胸はない。無理はせず、入口付近を探索することにした。
しばらく歩くと、
ピチッ
ピチッ
何かが跳ねる音が聞こえた。
そっと近づく。
そこには――スライムがいた。
迷宮で最弱と名高いモンスターだ。
「い、行くぞ……」
気合を入れて前に出る。
スライムが美々を見た。
どこが正面なのか分からないが、美々はそう感じた。
次の瞬間、スライムが跳ねる。
思ったより速い。
「ウッヒッ!」
避ける間もなく、スライムがお腹にぶつかった。
「痛っ……」
一瞬身構えたが、
「……くない?」
ダメージはほとんどない。
さすが迷宮最弱モンスターだ。
再び飛び掛かってくるスライムに向かって、美々は思い切り警棒を振り下ろした。
バシッ!
スライムは吹き飛び、壁にぶつかって転がる。
そして――
溶けるように消えた。
その場には小さなドロップ品が残っている。
キューブ状のゼリー。
スライムゼリーだ。
化粧品などの原料として使われる素材で、常に一定の需要がある。
「や、やった……!」
美々は初めてモンスターを倒し、ドロップ品を手に入れたことに思わず笑顔になった。
だがそのとき、
ピチッ
ピチッ
また後ろから音が聞こえた。
振り返ると、そこにはもう一匹スライムがいた。
「よっし」
美々は警棒を握り直す。
再びスライムを倒した。
そうして二時間ほど、迷宮の入口付近を回りながらスライムを倒し続けた。
息を切らしながら迷宮から出る。
「はぁ……はぁ……」
初めての探索としては、上々だと思う。
買取受付にドロップ品を提出する。
スライムゼリー――十個。
査定結果。
1000円。
一個百円だった。
普通のアルバイトをした方が稼げそうな金額だ。
それでも――
美々はウキウキしていた。
軽い足取りで迷宮エリアを出て、家へ帰っていった。




