7話
講習九日目と十日目は、医師による講義だった。
内容は迷宮内で怪我を負った時の応急処置。
そして救命処置の方法だ。
止血の仕方、骨折した場合の固定、心肺蘇生。
人形を使った実習もあり、受講者たちは順番に胸骨圧迫の練習などを行った。
迷宮では救急車は来ない。
怪我をしたら、まず自分たちで対処するしかない。
そんな現実を教えられる講習だった。
そして十日間の講習が終わった。
最後に受講者たちは一人ずつ名前を呼ばれ、前に出る。
そこで渡されたのが――
迷宮探索者資格。
通称、探索者カード。
見た目は運転免許証のようなカードだった。
このカードは探索者資格の証明になるだけではない。
クレジットカードとしての機能もあり、探索者向け施設で使うことができる。
さらに迷宮入口のゲートでかざすことで、入場と退場が自動で記録される仕組みになっている。
カードを受け取った美々は、何度もそれを見返した。
(……探索者)
自分が本当に探索者になったのだと、実感する。
美々は少しウキウキした気分で帰宅した。
そして翌日。
美々はさっそく迷宮へ向かった。
――とはいえ、迷宮に入るためではない。
装備品を買うためだ。
迷宮の周辺エリアには、探索者向けの施設が集まっている。
装備店、買取所、宿泊施設、訓練施設。
まるで探索者のための街のようだった。
美々はその中の一つ、探索者装備品専門店に入る。
店の中には、武器や防具がずらりと並んでいた。
剣。
槍。
斧。
盾。
様々な装備が展示されている。
美々は値札を見て、思わず声を漏らした。
「た、高い……」
剣一本でも数万円する。
防具はもっと高い。
どうしようと狼狽えていると、後ろから声が掛かった。
「何かお探しですか?」
女性店員だった。
美々はびくっと肩を震わせる。
「ウヒっ」
変な笑い声が出た。
自分でも恥ずかしい。
だが店員は特に気にした様子もなく、穏やかに微笑んでいる。
「初めてのお客様ですか?」
美々は慌てて頷いた。
「え、えっと……あの……」
言葉が詰まる。
それでもなんとか説明する。
新人探索者であること。
今日、初めて装備を買いに来たこと。
どもりながら、つっかえながら話す。
それでも店員は急かすことなく、最後まで聞いてくれた。
「なるほど。新人探索者の方ですね」
店員は少し考えてから言った。
「それでしたら、こちらがおすすめです」
美々は店員の後について店の奥へ向かった。
まず勧められたのは武器だった。
「こちらですね」
店員が手に取ったのは、八十センチほどの棒だった。
特殊警棒。
「伸縮式で軽くて丈夫です」
店員が軽く振って見せる。
カチッという音とともに、棒が伸びた。
「剣道や武術の経験がない方でも扱いやすい武器です」
「それに軽いので、長時間持っても疲れにくいですよ」
体力に自信のない美々には、確かに良さそうだった。
次に防具。
店員が持ってきたのは、見た目はジャージのような服だった。
「こちらはカーボンファイバー製の防護服です」
軽くて丈夫。
動きやすさもある。
さらにプロテクター、ヘルメット、フェイスガードも勧められた。
初心者はまず防御を重視した方がいいらしい。
美々は店員の説明を聞きながら何度も頷いた。
装備のことはよく分からない。
だからおすすめされたものを、そのまま購入することにした。
レジで金額を聞く。
「合計で十万円になります」
美々は財布を握りしめた。
講習費用が十万円。
今回の装備が十万円。
合わせて二十万円。
今まで貯めていたお小遣いとお年玉は、きれいに消えた。
だが美々は後悔していなかった。
(……頑張ろう)
自分を変えるために、迷宮に挑戦する。
ただ同時に、美々は一つの現実にも気づいていた。
探索者を続けるためには――
稼がなければならない。
そのことを、美々は初めて実感したのだった。




