62話
十八階層。
初めて足を踏み入れる階層に、美々はわずかに気を引き締める。
「……いきなりお香は無し。まずは様子見」
慎重に進み、索敵。
ほどなくして、影が動いた。
――コケェェッ!!
耳に刺さるような奇声と共に、暴れ軍鶏が一直線に突っ込んでくる。
「来るよ!」
美々の声に、兎見丸が一歩前へ出る。
盾を構え、真正面から迎え撃つ。
ドンッ!!
重い衝突音が響く。
だが――
「止まってる……!」
【不動】を発動した兎見丸は、微動だにしない。
むしろ、突撃した暴れ軍鶏の方が弾かれ、わずかによろめく。
その隙に――
「今!」
美々と巳未が同時に動く。
戦鎚が振り下ろされ、
短槍が鋭く突き込まれる。
立て直そうとした軍鶏は、嘴と爪で反撃を繰り出すが――
全て、兎見丸の盾に弾かれる。
「いけるね、これ」
数度の交戦で確信に変わる。
この敵は――対処できる。
「ここ、使える」
地形を確認した美々は、防御陣地の構築を始めた。
侵入経路を限定し、土嚢と逆茂木を配置する。
準備が整い――
「焚くよ」
モンスター寄せのお香に火をつける。
ほどなくして、地面を蹴る音が増えていく。
――コケェェッ!!
次々に現れる暴れ軍鶏。
一直線に突撃し、土嚢の壁へと激突する。
ドン!ドン!と鈍い音が連続するが――
「辰見!」
ヒュッ――
放たれた矢が、正確に頭部を射抜く。
【貫通】【連射】によって強化された一撃が、突撃の勢いそのままに仕留めていく。
「いいね、そのまま!」
それでも、数体は突破してくる。
「兎見丸、お願い!」
【挑発】が発動し、敵意が一点に集まる。
突撃してきた暴れ軍鶏は、全て兎見丸へと引き寄せられる。
「巳未!」
その背後から、巳未が踏み込む。
槍が閃く。
突く。
払う。
叩く。
【槍術】を得た動きは、すでに実戦レベルだ。
「……速い」
美々は全体を俯瞰しながら、状況を捌く。
壁の外にいる個体には【投擲】で牽制。
巳未が押されそうなら、すぐに前へ出て援護する。
戦線は安定していた。
崩れない。
回る。
そして、削り切る。
やがて、お香の効果が切れ、静寂が戻る。
「……ふぅ」
軽く息を吐いたその時――
「……あ」
巳未の動きが、わずかに変わった。
「スキル、取った?」
表示されたのは――
【連続突き】
「いいタイミングだね」
突きを連続で繰り出す攻撃スキル。
突進してくる敵との相性は抜群だ。
「これで……もっと削れる」
美々は静かに頷く。
一度の戦闘での習得。
それはつまり――
この環境が、巳未にとって“最適”だということ。
「……しばらく、ここだね」
十八階層。
暴れ軍鶏。
この場所で、さらに積み上げる。
次の段階へ進むために――
美々はもう一度、お香を取り出した。




